QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回は2007年に発表された、81年のカナダ公演収録の作品「Rock Montreal」です。
ツアーは「The Game」に伴う長期ツアーの最終二日間の模様を収録しています。1980年から81年にかけてのツアー(つまり「ヒゲのフレディ」のお披露目ツアーでもある)中、80年12月に「Flash Gordon」サントラがリリース、81年10月に”Under Pressure”がリリースされている(ちなみに「Greatest Hits」リリース直後でもあります)ため、ツアー中に”Battle Theme”、”Flash’s Theme”、”The Hero”の3曲が抜き差しされながら加わり、映画としての収録のための最終2公演で”Under Pressure”が加わっていたようですが、本作の映像作品の方は、”Flash’s Theme”、”The Hero”が紛失しており(”Jailhouse Rock”の映像も一時期所在不明だったらしい)、実は現時点までDVDでしか鑑賞してなかった僕は、このタイミングでそのことを知り、愕然としているのでした。つまりこの公演は、「The Game」のプロモーションでありつつ、「Flash Gordon」のプロモーションでもあり、さらに「Hot Space」の予告という要素と「Greatest Hits」にふさわしい、ここまでのQUEENのキャリアを総括する役割さえも担っていたと言えるでしょう。
翌年6月の公演を収録した「On Fire」と比べると以外に落ち着いた印象を覚えるのは、「The Game」と「Hot Space」の2作のトーンがあまりにも違いすぎることからくるのでしょう。リズムを中心にややレイドバックしたところもある「The Game」から、前のめりな熱いビートが刻まれる「Hot Space」への移行の激しさ、急旋回ぶりが、2作を比較すると垣間見える気がします。何せ、半年ぐらいしか期間が空いてないですからね。
初期から中期の楽曲、そして数々の代表曲を、まだハード・ロック・バンドとしてのテンションを保ちながら、安定した演奏力で披露しています。一方、ライブ初演の”Under Pressure”は、出だしのベースから若干の緊張が伺え、当時のフレッシュさが蘇るし、”Flash’s Theme”は、おそらく本ツアーでしか聴けない生演奏(「On Fire」ではコンサートのイントロでテープを流すだけ)で、ロジャーのドラムスが非常にダイナミックでスリリングです。そして、後にサポートメンバーによって補完されるキーボードやリズム・ギターが無い生々しさが、作品名に冠されている「Rock」な質感を高めていて痛快です。
「Live Killers」と比べると大人しいけれどもサウンドは極めて良好、「On Fire」と比べると尖りすぎていない、「Live at Wembley Stadium」ほどに落ち着いてはいない、無難と言われるとそうかもしれませんが、QUEEN入門者にもファンにももれなく満足を与えてくれそうな作品です。
何よりQUEENのライブ作品の中で、本作が最も録音状態が良いと言えるでしょう。デアゴスティーニ盤でも、各パートの音のダイレクトに届く生々しさと、力強くロックしているグルーヴ感、メンバーの表情すら見えてきそうな再現性は、QUEEN全作品の中でも随一ではないでしょうか。デアゴ盤の良し悪し云々ではなく、本作のアナログ盤が手に入る方法があるなら、とりあえず入手しておけ、と言いたくなる一枚です。