QUEENのデアゴスティーニ盤のリリースに合わせて、各作品について書くシリーズ。QUEEN史の時系列ではなく、デアゴスティーニのリリース順で、本シリーズのアナログ盤についても触れてますが、「A Night at the Opera」、「QUEEN」と続いて、第三弾の今回は、みんな大好き2ndアルバム「QUEEN II」です。
本作を最高傑作と呼ぶ人数知れず。そう、ロックファンにとってはやはりQUEENのアルバムと言えば「A Night at the Opera」ではなくて「QUEEN II」なのです。
しかし、このアルバムには後の代表曲になる、誰もが耳にしたことのあるポピュラーな曲は1曲も入っておらず、後の「Greatest Hits」にも、LP時代は”Seven Seas of Rhye”が英国盤だと辛うじて入っているに留まります。それは本作がコンセプト・アルバムで、曲単体で聴かれることをあまり想定していないからです。この頃までのQUEENはあくまでも作家主義的で、ヒット曲を意識するのは”Killer Queen”以降。つまり前作と本作の2枚が、「初期QUEEN」という独自のスタイルであって、そういう意味で本作は初期QUEENの完成形と言えます。本作を最高傑作と呼ぶ人は、この初期のスタイルこそがQUEENの魅力だと考えている人たちなので、1stか2ndかの2択になり、本作が最高傑作となるのは必然とも言えます。
それにしても本作でのQUEENの拘りぶりは生半可ではなく、レーベルもA面、B面を「SIDE WHITE」、「SIDE BLACK」と表記し、ジャケットもゲートフォールドにした上で、表が黒、中を開くと白と徹底しています。
楽曲も、「SIDE WHITE」はブライアン作曲(1曲だけロジャー作曲ですが、彼は2枚目にして早くも捨て曲要員と化しています)、「SIDE BLACK」はフレディ作曲で、カラーが全く違います。雄大で穏やかな前半も前作の荒削りさが嘘のような洗練されたサウンドが素晴らしいですが、後半の、ほとんど曲間を空けずに怒涛のごとく繰り広げられる激しく劇的な展開には息を飲みます。
まさかのテープ逆回転から入る”Ogre Battle”、すかさず入るチェンバロから始まる”The Fairy Feller’s Master-Stroke”、穏やかなピアノで徐々にクールダウンする”Nevermore”、不穏なピアノの響きからドラマティックに展開していく”March of the Black Queen”、ブレイク後の軽妙なピアノでアウトロに入ると、ギターに乗せてリフレインしながらフェードアウトする”Funny How Love is”へ……と、フレディ担当の「SIDE BLACK」は、彼の作曲能力が早くも大きく花開き始めます。
前作ではまだ試験運用的にしか行われていなかった対位法的なメロディの重層的なアプローチが、本作では随所に現れ、聴き手はフレディの声、重なる合唱、ギターのメロディが絡み合いながらハーモニーを生み出す万華鏡のようなサウンドに心地よく翻弄されます。前作ではまだ大人しかったジョンも、それに呼応して柔軟なベースラインを低音部で奏でています。”March of the Black Queen”での低音部の動きに注目すると、まだ洗練されてはいませんが、既に旋律的なフレージングが垣間見えて非常に興味深いです。
彼らのプログレ的路線の最高潮で、フレディのファンタジー路線の到達点として非常に高い、完璧とも言いたくなるような完成度を誇る本作ですが、「最高傑作」と言うにはやや気がひけるのは、彼らがその後の長いキャリアの中で編み出してきたたくさんのオリジナリティあふれるアイデアが、この時点ではまだその萌芽しか見えていないから、ではないかと思います。本当に素晴らしいし、客観的に見てアルバム1枚通してこれ以上の作品がその後出たのかと言えば実際迷うところではあるんですが、それでも「QUEEN」の高いポテンシャルは、「初期QUEEN」ではまだまだ活かしきれていなかった、という思いが勝ってしまいます。フレディの描く美しいハーモニーも、ジョンの歌うように流麗なベースも、ブライアンのうっとりするようなギターオーケストレーションも、自家薬籠中となるにはあと数作を待たねばなりません(ロジャーに関してはもっと待つ必要があります)。
さて本題。デアゴスティーニ盤ですが、まず驚いたのはジャケット。写真がとても綺麗です。ネットで「QUEEN II」のジャケット画像を検索すると、写真の品質に色々あるのがわかると思いますが、僕が持っているUK盤のジャケットは、写真がくすんでいて、解像度の低いものでしたが、デアゴスティーニ盤は鮮明で解像度の高い写真が使われ、PP加工されたツヤのある表面、厚手のずっしりした紙質含めてかなり満足度が高いです。
音質の方はと言うと、「可もなく不可もなく」といったところでしょうか。前作の音圧バリバリから一転、ボリューム控えめで、とても丁寧に作っているのは伝わってきますが、フォーマットやデバイスに左右されるほどの情報が刻まれておらず、内容と比べるとやや食い足りない感じがします。先に書いたゲートフォールド含めた世界観を堪能するには最高のクオリティですが、スピーカーの出音に期待できる要素は少ない作品でした。まあでも、「SIDE WHITE」聴いてから、盤ひっくり返して「SIDE BLACK」のイントロが聴こえてくるまでのワクワク感は、本作を楽しむ上で捨てがたい、というか結構大事な魅力なので、やっぱりアナログで聴くべきだと思うし、今なら、わざわざ品質に不安のある中古盤買うよりも、新品のデアゴスティーニ盤買うべきじゃないですかね。
ちなみに2015年リリースの「Complete Studio Albums」(スタジオ盤のLPリマスターBOX。デアゴスティーニ盤と同じマスター。のはず)だと、本作は「SIDE WHITE」が白いヴァイナル、「SIDE BLACK」を黒いヴァイナル、と2枚に分けているのでよりプレミアム感が増すことと思います。