【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】18枚目:ヒゲのフレディ爆誕「The Game」

デアゴスティーニ盤「The Game」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回はジョン・ディーコンの大ヒット曲“Another One Bites The Dust”収録「The Game」です。

前作「Jazz」で、セルフパロディになるギリギリのところまで来ていたQUEENですが、本作は反復に陥りかねない際どい線上にいながら、“Another One Bites The Dust”、“Crazy Little Thing Called Love”という新機軸を大ヒットさせることで、なんとか生きながらえた感があります。

デアゴスティーニのブックレットで、ロジャーが“Another One Bites The Dust”について「シュガーヒルギャングみたいだと思った」という旨を語ったと記されていますが、正確にはジョンはThe Sugarhill Gangの“Rapper’s Delight”の元ネタであるThe Chicの“Good Times”を元にしているはずです。どちらも1979年リリースで、本曲は80年リリース。ジョンは自分の趣味を全開にすることを叶え、バンドはアメリカで最大のヒットを生み出すことに成功しました。この大成功はしかし、次作「Hot Space」での失敗の大きな誘引ともなってしまいます。

本作収録曲のうち、“Another One Bites The Dust”のみリバーブを切った、デッドでスピーカーに密着したような音にしていますが、その他の曲は全然そんな音にはなっておらず、この曲だけ別のバンドの曲のようになっています。おそらく共同プロデューサーとして参加しているラインホルト・マックの影響でしょうが、彼の参加によって本作ではシンセサイザーの導入やブライアンのテレキャスター使用、そして大胆なテープ編集も行われることになりました。”Dragon Attack”をよく聴いてみると、フレディが”Take me to the room where the…”と歌うバックグラウンド、ドラムスのみになるパートで、直前まで鳴っていたベースとギターによるリフが聴こえます。これはベースとギターが同時に演奏されていないところを聴くとほぼ全てで鳴っているようで、唯一”Low dow, she don’t take no prisoners…”のバックグラウンド、キック・ハイハット・スネアが鳴っていないパートでのみ完全に消えています。おそらく基本リズムのドラムパートは2小節ぐらいのフレーズをループさせていて、その素材となるリズムトラックを録る際にロジャーのガイドとして入れていたリフの音が小さく残っているのではないかと思います。

その後のQUEENのスタイルの礎となる様々な要素、そして“Another One Bites The Dust”でのディスコ/ファンク、“Crazy Little Thing Called Love”でのロカビリーという、天才シンガーであるフレディが持つ新たな可能性を花開かせた偉大な功績とともに、本作が重要な意味を持つのは、後に彼のトレードマークとなる「口ヒゲ」でしょう。

本作は1979年から1980年にかけてレコーディングされていますが、そのうち79年に録音された“Crazy Little Thing Called Love”は同年シングルとしてリリースされ、ミュージック・ビデオも撮影されています。この時点でフレディはまだヒゲを生やしておらず、翌年1月にリリースされた”Save Me”のビデオでも、それまでのファンにおなじみのフレディでした。

ここまでが1979年の録音に関わるもので、80年に録音され、同年5月に発表された“Play The Game”のビデオで初めて「ヒゲのフレディ」が世に問われることになりました。

ファンからは散々言われながらも、今となっては「フレディ=短髪で口ヒゲ」が当然のように思われています。しかしかれが口ヒゲを生やしていた期間は意外に長くありません。
1987年、”The Great Pretender”の時点で、既にヒゲはありません。

その後も「Barcelona」はもちろん、「The Miracle」ジャケットでも生えていませんし、同作に伴う各ミュージック・ビデオでは無精髭のような伸ばし方をしていて、決して口ひげをたくわえた伸ばし方ではありません。「Innuendo」でも無精髭もしくは綺麗に剃った状態で映っています。

つまり結成からフレディ他界までの20年間で、彼が口ヒゲを生やしていたのはたった7年間しかなく、口ヒゲ姿のフレディの写真がジャケットで拝めるオリジナル・アルバムは「The Works」1作しかないのです。

それでも「フレディ=短髪で口ヒゲ」のイメージが根強いのは、この時期に良質なミュージック・ビデオを数多く作っていたこと(つまりMTVの時代だったこと)、コンサートを収録したビデオソフトが80年代以降にリリースされたこと(奇しくもコンサートを行わなくなった時点で、フレディは口髭をやめました)、そしてライブ・エイドで世界中に放送されたことがあるでしょう。

というわけで、フレディにとってはいろんな意味で転機となった作品ですが、前述の2曲以外は手堅く無難な球を投げており、ロジャーは「News of the World」「Jazz」で新たな境地を切り開きそうだったのに、そのお株をジョンに奪われた上に捨て曲要員へと原点回帰までしてのける始末。B面を聴くのが軽い苦行になりかねない仕上がりとなっています。その分、ジョンは大活躍で、ミックスも彼のベースに耳が行きやすくなっているのもあり、非常に聴き応えがあります。前半各曲での引き出しの多さは勿論、”Sail Away Sweet Sister”における、リズム楽器の概念を覆すようなメロディアスなフレージングなどは感動ものです。

デアゴスティーニ盤について。鏡のように反射する銀紙の上に、黒・赤・白の3色で印刷したジャケットは傷が目立ちそうで取り扱いに戸惑うものの、こういう特殊印刷も再現している点はとても大事です。内袋を見ると、「No Synths」のクレジットがないことよりも、作曲者のクレジットがないことが意外でした(この点に非常にうるさく、揉め事の原因にすらなっていたので)。音質については、ジョンのベースは太くブンブン唸っていますが、ドラムスが引っ込んでいて(”Play The Game”のイントロからドラムスが入ってきた時の引っ込み具合には肩透かしされます)、全体的にややフラットなため、ハーフスピード・マスタリングも、ここでは作品の良さを引き出すことにあまり貢献していないようでした。デアゴ盤以外のアナログと聴き比べたことはないのですが、もしかするとCDが良いかも、という気すらします。

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