QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回は、82年の野外ライブを収録した「On Fire: Live at the Bowl」です。
本作は今から15年前にDVDでもリリースされましたが、僕はQUEENのブートは聴いていなかったので、82年、つまり「Hot Space」に伴うツアーということで、聴く前はどんな内容のパフォーマンスなのか想像もつかず、やや半信半疑で購入しました。聴いてびっくり、「Hot Space」収録曲がことごとく切れ味鋭いファンクチューンとしてハードに演奏されていて、「Live Killers」の激しさ、「Live at Wembley Stadium」の演奏のまったり感とも違う、熱い演奏にとても興奮しました。
「Hot Space」の売り上げ不調(とメンバー間の亀裂)とは裏腹に、演奏自体は最も脂の乗っている時期だと感じられる、気合の漲ったパフォーマンスで、特に彼らのファンクバンドとしてのポテンシャルが感じさせられる(だけにのちに封印されてしまうのが勿体無いとも思わせる)”Staying Power”のグルーヴ感、フレディのMCが格好良すぎる”Somebody to Love”などは白眉です。
映像も、フィルムの質感が格好良く、メンバーも気に入って86年のウェンブリーで同じ監督を起用したそうですが、画質は本作の方が遥かに優れています。
QUEENは「Hot Space」の商業的な失敗により、次作「THe Works」では、ブラック・ミュージック路線を後退させ、シンセのビートや後の”The Invisible Man”などで小出しにする程度になりましたが(QUEENの音楽の中に上手く取り込んだとも言えますね)、ライブ・パフォーマンスも、後のライブ映像を見ても、この頃までの気合いと迫力に満ちたハードなスタイルが大幅に後退し、おおらかでまったりとした演奏スタイルに置き換わってしまっています。LIVE AIDはそんな時期に差し掛かったQUEENのパフォーマンスなので、この日の演奏をもって「世界最高のライブバンド」と呼ばれたことには首を傾げてしまうわけです。そして、某映画でもこの演奏がハイライトになっていることにも疑問符が浮かぶわけです。やはり彼らが「世界最高のライブバンド」と言えるとしたら、この時期までの彼らを指すべきでしょう。
デアゴスティーニ盤は、アナログ3枚を、ゲートフォールドではなく、箱状(背に8ミリぐらいの幅があり、レコード挿入口が広く開いています)のジャケットに収納しています。それぞれ穴開きのインナースリーブと別に、当日のライブ写真をあしらったレコード袋も3枚分付いてきますが、この写真がかっこいいのなんの。ジャケットアートワークのダサさは一体なんだろうというほど素晴らしいです。フレディの躍動感ある写真に、惚れ惚れしてしまいます。
さて音質はというと、さすがに「Live Killers」よりは遥かにましですが、とはいえ高音質というには全体的にこぢんまりと引っ込んだ感じがして、ちょっと物足りない印象です。しかし、演奏自体は素晴らしいですし、「Hot Space」のナンバーは”Under Pressure”以外は後にも先にも演奏されていないので、アナログで聴きたい、と思ったら本作を買うしかないので、「Hot Space」ファンにとってはマストアイテムでしょう。