【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】6枚目:本当の意味での復活作「A Kind of Magic」

デアゴスティーニ盤「A Kind of Magic」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。「A Night at the Opera」「QUEEN」「QUEEN II」「Made In Heaven」「The Miracle」とこれまで続けてきておりますが、6枚目となる今回は、ウェンブリーコンサートでもおなじみ「A Kind of Magic」です。

後期QUEENにとってLIVE AIDが重要だったのは、例の映画で描かれているような「最高のパフォーマンスを披露した」ということではなくて、「最高のパフォーマンスを披露した」と彼らが思えたことです。実際は演奏も選曲も急ごしらえ感は否めませんし、そこだけを切り出したときに特筆すべきものは何もないんですが、ド頭から大合唱で迎えてくれたウェンブリーアリーナの観客のリアクションが、メンバーの自信につながり、ボブ・ゲルドフはじめとするイベント運営側にも「QUEENめっちゃウケとるがな」というインパクトを残すことになり、それが「俺たちまだまだいけるかも」という思い、そしてオーディエンス側も「やっぱQUEENいいかも」と再発見するきっかけとなったことが、その後の作品のクオリティに反映されています。

実際、LIVE AID前にリリースされた「The Works」は、その前の作品「Hot Space」のダンス・ミュージックが思いの外低評価だったからか、楽曲スタイルをやや元に戻していますが、「The Game」ですら自己模倣に陥りそうなところをファンクやロカビリーでカバーしているようなところがあったので、「The Works」に至っては(シングルヒットもありセールスは伸びたものの)非常に自己模倣的な作品となってしまっています。メンバー同士の対立は、その要因の一つとなっていたことでしょう。

しかしLIVE AIDで自信を取り戻し、「俺たちまだまだいけるかも」と思った4人は、徐々に復活し始めます。LIVE AIDの勢いを作品に落とし込もうとして録音された先行シングル”One Vision”はレコーディング風景も映像として公開されましたが、メンバー全員で侃侃諤諤と作曲している様子が伺えます(ただ、楽曲の出来の良し悪しだけで言えば、大したことないな、という感じですが)。

そして映画「ハイランダー」のサントラとしてスタートしつつも、「Flash Gordon」の二の舞にならないように(これもデアゴスティーニのラインナップに入ってるんだよなあ……)しっかりと楽曲本位で作曲されたことで単体アルバムとして非常に完成度の高いアルバムに仕上げたのがこの「A Kind of Magic」。特に「The Works」と比べれば、自身の漲り方、メンバーのやる気の違いがよくわかるのではないでしょうか。

ミュージック・ビデオも最高な”A Kind of Magic”は、前作での大ヒットから、「捨て曲要員」を脱したロジャー作曲ですが、デモ段階でフレディが大幅に手を加えたことで今の形になったそう。

多分これがそのデモだと思うんですが、なんかクラフトワークみたいです。

劇中もこちらのバージョンが使われているよう(映画は未見)ですが、アルバム・バージョンでは、ドラムスとベースが四つ打ちになっています。実はQUEENの楽曲でドラムスとベース両者が揃って四つ打ちで拍の頭にアクセントを持ってくる楽曲はほとんどありません。ベースラインは前作の”Keep Passing The Open Windows”とほぼ同じですが、元が8ビートでBPMも早めなのが、この曲ではゆったりとした4ビートになっています。譜割りがシンプルなので、下手すると間抜けな凡曲になりかねないところを、多幸感溢れるダンストラックに仕上げています。

この最終アレンジ一つ取ってもそうですが、本作収録曲の多くが、前作と比べて楽曲の説得力が遥かに増していて、4人がそれぞれのエゴではなく、QUEENとしての作品に向けて意識が集中しているのが伝わってきます。QUEENはこの時点で既に様々な音楽手法を取り入れた上で、QUEENとしての音楽スタイルを確立していて、もうやるべきことはやり尽くしていたので、だからこそ「Hot Space」はああいう形で大きな転換を図っていたと思うんですが、あとは自己模倣にならざるを得ないところを、どれだけ新鮮に聴かせるかという無理難題に立ち向かわなければならなかったわけで、「The Works」が自己模倣的なのも致し方無し、なのですが、本作は自己模倣的に感じさせないだけのフレッシュなアレンジがされているので、QUEENらしさとフレッシュさを見事に両立しています。

前述のタイトル曲、そしてアルバムラストの”Princes of the Universe”はまさにその典型で、QUEENっぽい要素のコラージュのような曲なのに、聴き手をねじ伏せるような圧倒的な歌唱とラウドな演奏によって、有無を言わせない説得力を有しています。かなり力技なんですが、その力技が成功するほど、当時の4人にはエネルギーが満ちていたということでしょう。この強さと高いモチベーションはアルバムリリース後のツアーを経て更に充実し、次作「The Miracle」において結実することになります。

さてLPですが、本作に関して言えば、特筆すべきところはあまりないですね。音に関しては80年代的な引っ込んだ音ですし(”Princes of the Universe”のすごさを、音質がスポイルしてしまっていて大変勿体ない)、A/B面分けて聴くと、意外にこぢんまりしたアルバムだな、という印象が強まるため、CDで通して聴いた方が魅力が高まる気がします(今だとボーナス・トラックとかもいっぱいあるみたいですし)。ただ、これは本作に限った話ではないですが、デアゴスティーニのシリーズは、ライブ盤、ベスト盤を除くと、いずれも歌詞が載せられた内袋が付いています。CDだとコンパクトなブックレットですが、内袋の歌詞を見ながらレコードを聴く、というのが、やってみると意外に楽しいので、そういう楽しみのためなら買ってもいいかも。

あ、あと本作のアートワークが好きな人も、やっぱり12インチサイズで見るのは格別なので、盤質も良く音も良好、印刷も綺麗なデアゴスティーニ盤が良いのではないでしょうか。僕、好きなんです、このジャケ。Roger Chiassonというディズニー社のアニメーターさんによる作品だそうです。

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