QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回はQUEEN史上最高にファンキーな作品「Hot Space」です。
今となっては人気も評判も悪くない作品ですが、発表当時は非難の的となり、商業的にもコケてしまったために、「On Fire」に代表される「Hot Space」に伴うツアー以外では”Under Pressure”しか演奏されませんでした(”Under Pressure”にしても、「Greatest Hits」に入ってる場合もあるぐらいで、本作のための曲と言えるかどうか微妙ですが)。
QUEENはそもそも、作品ごとに新しいことに挑戦することでアップデートしていくバンドだったわけで、ここまでは音楽性が大きく変わろうともファンはついてきてくれていたのに、なぜ本作では駄目だったのか。
おそらく、それまでのQUEENは、新しいことに挑戦することで、過去のファンをある程度振り落としつつ、新しいファンを大量に獲得することで、ステップアップしてきたからでしょう。前作「The Game」でアメリカを制覇し、もう「大量の新しいファン」を獲得する余地がなくなったところへ、かなり大胆な舵取りをしてしまったことで、過去のファンを大量に振り落すことになってしまったのではないでしょうか。(「Flash Gordon」については、ひとまず忘れよう)。
当時の評価は散々でも、今となっては本作をディスコ路線だからと非難する人はほとんどいないでしょう。何せ、フレディの歌唱が強烈にファンキーで、見事な相性の良さを見せているからです。前作における”Another One Bites the Dust”を発展させたパワフルな歌唱は、ホーン・セクションが炸裂する”Staying Power”、”Back Chat”で冴えまくっているし、”Cool Cat”でのファルセットとジョンのスラップ・ベースも上質なR&Bを聴いている心地よさがあります。フレディはボーカリストとして新たな次元に突入し、達成感もひとしお、これはヤバいものが録れら、と、相当自信があったはずです。それだけに、当時の評価は相当ダメージが大きかったのではないでしょうか。折しもメンバー間の軋轢も高まっていたタイミングですし、次作「Works」までインターバルを置かざるを得なかったことでしょう。
ジョンも水を得た魚のように活躍していますが、最も印象的なのはやはり、今やロック・クラシックとなった”Under Pressure”のベースラインでしょう。”Another One Bites the Dust”以降、ベースの印象的なナンバーが増え、この後も”A Kind of Magic”、”The Invisible Man”といったヒット曲が生まれています。つまり本作の路線は前作で準備され、本作以後も確実に踏襲されているわけで、「The Works」で本道に戻ったと言われようが、やはり前作以降、QUEENというバンドは決定的に大きな変化を起こしていた、ということがジョンのベースひとつからも伺えます。こう見れば、「The Works」がなぜヒットした割に覇気のない作品なのかもなんとなく分かる気がします。
一方、本作のレコーディングを「苦痛だった」とまで言っているブライアン、”Las Palabras De Amor (The Words of Love)”という上質のバラード、キレのいいロック・チューン”Put Out the Fire”と、意外に自分の本道を守っていて、優男風の顔立ちの割に食えない男だということが垣間見得ます(大体、文句言ってる割に本作でのブライアンのギタープレイは素晴らしく、特に”Cool Cat”でのナイル・ロジャースばりの小気味いいカッティングにはゾクゾクしてしまうほどですから、実は本作の良いところは彼が持って行ってると言っても過言ではありません)。そして僕らのロジャーは、”Action This Day”で見事にアジャストしておきながら、”Calling All Girls”のような投げやりな曲をまた作ってしまうという愚かさ。しかしバンドもなぜこれをシングル・カットしたのか……。
前作の先行シングル”Crazy Little Thing Called Love”がジョン・レノンを触発したと言われていますが、それからまもなく彼が射殺されたことはQUEENメンバーにとってはショックも尚更だったと思われます。しかしその割に”Life Is Real (Song For Lennon)”が凡庸な曲にしかなっていないのは残念だったりもしますが、とはいえ全体的に楽曲のクオリティが非常に高く、大ヒットとなった前作・次作と比べても高水準な一枚です。
さてデアゴスティーニ盤ですが、やはり音のクリアさが際立っていて、本作のサウンドを堪能するにはうってつけという感じです。ディスコで自分たちの曲がかかっているのを聴いて、サウンドのバランスを調整したらしいですが、上記の通り、実は本作は「ファンク/ディスコ調」のアルバムと言われる割には、非常にバラエティに富んでいて、正にQUEENらしいと言える曲構成になっています。「The Game」では曲によってサウンドにバラつきがあったのと比べると、本作は全体に統一感があり、しかもロックでもバラードでもファンクでも、一定水準以上のクオリティを弾き出しているので、大変スムーズに、心地よく聴き通すことができます。その分、角が取れ始め、実は次作「The Works」にサウンドが近づきつつあるのですが、本作ではまだマッシヴさが残っています。作品ごとに録音状態に差があり、全体的にオーディオファイル向きの録音ではないQUEENですが、そんな彼らのスタジオアルバムの中では、かなり良好な方ではないでしょうか。