【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】1枚目:持ってて損無し「A Night at the Opera」

デアゴスティーニ盤「A Night at the Opera」
現在、デアゴスティーニからQUEENのアナログ盤が隔週でリリースされています。僕も定期購読しているんですが、盤、ジャケ、解説いずれもなかなか出来が良く、以前からアナログで全作買い揃えようかと思いあぐねていたタイミングだったので、毎号ありがたく楽しませてもらっています。

今までほぼCD(それも90年代始めにハリウッドレコードから出たリマスター盤)だけで聴いてきたので、改めてアナログで聴いてみると新たな気づきがあったり、現在の何周目かの日本でのQUEENブームのきっかけになった例の映画のことなど、言いたい事も色々あるので、デアゴスティーニのリリース順に、まとめてみようかと思います。

というわけで、第一弾は「A Night at the Opera」。デアゴスティーニ商法で、毎度1号目がお安くなっていますが、QUEENといえばこれしかない、といったところでしょう。

しかしこのアルバム、”Bohemian Rhapsody”が収録されているため、名盤と呼ばざるを得ない作品ですが、QUEENのアルバムとしても、いわゆるロックバンドのアルバムとしても、素直に名盤という一言では済まされないような、かなり変な作品です。

「A Night at the Opera」というコンセプチュアルな薫り漂うアルバムタイトル、そして後半に控える”Bohemian Rhapsody”。しかしアルバム冒頭は不穏で殺伐とした”Death on Two Legs (Dedicated To…)”で幕を開けます。過去のアルバムを振り返っても、1stでの快活なスタート、2ndのコンセプト・アルバム然としたワクワク感溢れるイントロ、3rdの切れ味抜群の痛快なギターリフ……そして4枚目がこれ。ギョッとするより他ないです。なぜこの曲から始めるのか。2ndみたいにオペラっぽいオーバチュアはいくらでも用意できたはずなのに。

しかもこの曲に続いて、古い映画でも意識したかのような、”Lazing on a Sunday Afternoon”の人を食ったような曲調。何がやりたいのかと思ってると、ロジャー・テイラーの”I’m in Love With My Car”が始まります。例の映画でも茶化されてましたが、この曲に限らず、ロジャーがつまらなくない曲を作るまでには更に数年待たなければいけませんが、特にこの曲は豚が鳴いてるようなヘボいエンジン音含めて、世界中数多ある車をテーマにした曲の中で一番しょうもないんじゃないかという気がします。

困惑し通しな中、ようやく登場するまともな曲”You’re My Best Friend”は、4人の中で唯一まともな人・ジョン・ディーコンの曲(しかしベースに耳を澄ましてみると、結構すごいことになっています)。続くフォーキーな”’39″、ハード・ロックな”Sweet Lady”という二番目にまともな人・ブライアン・メイの曲ですっかり普通のアルバムに戻ったかと思うと、フレディ作曲によるミュージカル調の”Seaside Rendezvous”。これがもう、ものすごく良い。ものすごく良いんですが、これでレコードだとA面終了。当時、”March of the Black Queen”や”Stone Cold Crazy”を期待してたQUEENファンは、一体どんな顔をして盤面をひっくり返していたのでしょうか。

B面冒頭は”The Prophet’s Song”。このアルバム、”Bohemian Rhapsody”にフォーカスされがちですが、こちらの曲も白眉。曲の長さで言えばこちらの方が長く、QUEEN史上でも最長。しかし力強いギター・リフも中盤の輪唱もQUEENならではの圧倒的な世界が繰り広げられています。フレディ作曲だと思い込んでたら、実はブライアン作曲でした(まあよく考えれば、作曲して対位法を構築するフレディと、ディレイをかけて電気的に重ねることで”カノン風”にするブライアンは全く違うわけですが)。

この曲のアウトロと繋がって演奏されるのが、ライブの定番”Love Of My Life”。実はQUEENによるいわゆるバラード曲はこれが最初で、パブリックイメージにあるポピュラーバンドとしてのQUEENはここから始まったと言っても良いでしょう(そして再びジョンのベースに耳を傾けると、メロディアスで美しいフレーズを奏でているのがわかります。彼がこの辺りからリリカルで色気のあるベースを弾くことに覚醒し、対旋律としてのベースラインの可能性を大きく拡張していくことになります)。これまでは、そんなバンドじゃなかったんですよ。でも、そんなバンドになった最初のアルバムは、こんな変なアルバムだったんですよ。

というわけで、続いての曲はブライアンが日本製のウクレレ弾いてるオールド・ジャズっぽい”Good Company”。”Lazing on a Sunday Afternoon”、”Seaside Rendezvous”、そしてこの曲が、このアルバム全体の雰囲気を決定づけていると言えるかと思います。だからこそ、非常にとっ散らかった内容でありながら、妙な統一感が漂っているのではないでしょうか。

そして、”Bohemian Rhapsody”。オペラ・パートは何度聴いても鳥肌が立ちますが、この多重録音パート、ボーカルをひたすら重ねて重厚で荘厳なサウンドを生み出していて、バックの演奏はピアノ、ベース、ドラムしかないという点も聴き逃せません。ストリングスもホーンもブラスも使わなかったことが、よりQUEENのオリジナリティを際立たせていますね。

最後、”God Save the Queen”が流れますが、”Bohemian Rhapsody”の圧倒的な地位が確立された今だから当然のように受け入れられますが、アルバムの最後に国歌が流れるわけですから、当時の本作に対するメンバーの自信というのは、想像をはるかに超えたものだったんだろうなと思います。もし”Bohemian Rhapsody”が適当な評価しか受けなかったとしたら、ずいぶん独りよがりで空回りな終わり方だと捉えられる可能性が高かったんじゃないでしょうか。

前半特にけなしているような調子ではありましたが、もちろん僕は名盤だと思って愛聴してます。気になるのは、周期的に起こるQUEENブームの際に現れるにわかファンの中に、ベスト盤じゃなくてこのアルバムを買う人がどれぐらいいるのか、その人は果たしてこのアルバムを聴いてどんな感想を持つのか、という点が気になるわけです。本作は誰もが一聴して大好きになるような、そんな甘ったれたアルバムではないでしょう。彼らの全作品中でもかなり特殊な位置にある本作を「名盤」「代表作」という一言で片付けるのは、とても抵抗があります。この危うさ、この歪さ、このヤバを、あるがままに引き受けた上で、深い感動を味わってほしいものです。

さてデアゴスティーニ盤を聴いての音質についての感想ですが、某オーディオ誌で「多重録音による音の分厚さ」「フレディのボーカルが中央に定位してて、様々な音が左右で鳴ってる」というような、「横断歩道を渡るときに、ちゃんと左右を見てから渡りましたね」みたいな評価だったので笑ってしまいましたが、まあ要するに、音の良し悪しについては特筆すべきことは何もないということですね。

そもそもQUEENは録音技法や音の素材に関しては強いこだわりを持っていましたが、音質に関してはそれほど執着していないところがあります。”Bohemian Rhapsody”だって多重録音しすぎて音が歪んでいるわけですが、それによって生まれたマッシブさというのも、多分意図してないと思うんですよね。ただそれでも、僕が持っていた古いアナログ盤と比べると音は(当然ですが)クリアで立体的。ハーフスピード・カッティングしている効果も、滑らかな声や楽器の響きから感じられます。多分この感触は、CDやハイレゾ音源とは違う味わいが出ているんじゃないでしょうか(聴き比べてないので断言できませんが)。

ちなみにこのデアゴスティーニ盤は、2015年に発売されたアナログリイシュー盤が元になっていて、マスタリング・エンジニアはBOB LUDWIG、ハーフ・スピード・カッティングを担当したのはアビー・ロード・スタジオのMILES SHOWELL。

アルバムジャケットのエンボス加工もちゃんと再現されてますし、しっかりした内袋も付いてきますし、金額からしても買って損のない1枚でしょう。

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