【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】5枚目:後期最高傑作「The Miracle」

デアゴスティーニ盤「The Miracle」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。「A Night at the Opera」「QUEEN」「QUEEN II」「Made In Heaven」と書いてきまして、今回の第五弾は、僕の大好きな「The Miracle」です。

フレディの病状悪化によりライブを行わなかったことや、前後の作品に耳目を引く要素が多かったことにより、QUEEN史の中でも埋もれがちではないかと思いますが、LIVE AID以降調子の戻ってきた4人が完全に本調子になり、溢れんばかりのアイデアを贅沢に盛り込み、はち切れんばかりのエネルギーで大いにパフォーマンスした充実の一枚です。

とにかくメンバー全員のモチベーションが高く、冒頭”Party”から”Khashoggi’s Ship”まで終始ハイテンションに攻めると、ポップかつ複数曲を継ぎ接ぎしたような展開が楽しいタイトル曲”The Miracle”、間奏でヘヴィなハード・ロックに切り替わるスケール感のある”I Want It All”、マイケル・ジャクソン”Bad”のQUEEN版とも言うべきダンス・チューン”Invisible Man”……と、盛り上がりっぱなしのうちにA面が終了。特にジョンとフレディの共作”The Miracle”では久々に、旋律が重層的に絡み合う、初期の対位法的なアプローチも見せています。

B面に入ってもノリノリの”Breakthru”、陽気で軽快な”Rain Must Fall”、一転してシリアスな”Scandal”、アダルトな”My Baby Does Me”、”I Want It All”をより複雑にしたような”Was It All Worth It”……と、バラエティに富みつつもそれぞれの高い完成度とQUEENらしい作り込みで最後まで楽しませてくれます(ジョンは”Was It All Worth It”をいちばんのお気に入りと発言してるらしいんですが、僕は本作の中ではこの曲だけ空回りしてる気がするんですよね)。

この楽曲の充実度の高さは、かなり大量の候補曲を(ソロ活動でリフレッシュしたメンバーが)それぞれで持ち寄って、ふるいにかけて厳選した結果とのこと。本作と次作「Innuendo」の作曲クレジットはQUEENになっていますが、今はどれが誰の曲かわかるようになっています。これまで「捨て曲要員」とか散々コケにしていたロジャーも、自分で歌わなくなった「Hot Space」以降どんどん腕を上げて、本作では”The Invisible Man”、”Breakthru”(イントロはフレディ)という快作を生み出しています。

当時フレディはすでに病に侵されていて、体調の優れない日もあったようですが、声に衰えが見えるのは次作「Innuendo」で、本作では前作「A Kind of Magic」での成熟した歌唱力にさらに磨きをかけ、過去最高のパフォーマンスを聴かせてくれます。ザラッとしていながら伸びやかで、太く、広域から低域まで自在に歌いこなしています。フレディが見事に、余裕綽々で声を操る様を堪能するにも、本作は最高と言えます。

更に忘れてはいけないのが、本作に関連するミュージックビデオ。メンバーを子供に代役させた”The Miracle”の秀逸さは、後にノトリアスB.I.G”Sky’s The Limit”に継承されるほどチャーミングですし、”I Want It All”でのフレディの存在感は圧倒的です。

中でも”Breakthru”のミュージック・ビデオはQUEEN史上でも重要な1本だと思います。

蒸気機関車を貸し切り、QUEEN仕様にペイントし、演奏するメンバーを乗せて疾走するところを空撮した、とにかく痛快な映像ですが、これがQUEEN史上重要だと思うのは、ここにQUEENの「男の子」の側面が表現されているからです。QUEENのミュージック・ビデオは、主に耽美、マッチョ、フェミニン、エロスといった要素で成り立っていますが、蒸気を上げる列車に乗って、風を浴びながら全身で演奏する楽しさを満喫する4人の姿を見ていると、とても「男の子」を感じます。オッサンだけど、ゲイだけど、でもここでは「男の子」がひょこっと顔を出してる。そんなところにグッときてしまうので、このビデオを何度も繰り返し観てしまうのです。

というわけで、当時の音楽シーンからすると過去のバンドと見られていたQUEENですが、「Greatest Hits」以降をQUEENキャリアの後期とすると、その中では最も完成度が高く、最もQUEENらしい、かっこよくて楽しい最高の作品だと思います。次作「Innuendo」のこと、直後のフレディのことを思うと、これが最後の輝きのようにも見えて切ないですが。

さてデアゴスティーニ盤ですが、「The Miracle」が1989年リリースで、既にCDを前提とした作品なので、アナログ盤では楽曲が削られています。上記でもアナログを前提に書いているので”Hang On In There”、”Chinese Torture”について触れてません(”Hang On In There”はこれまた佳曲、”Chinese Torture”はオマケ的な短いインスト)。デアゴスティーニ盤も同じ構成ですので、今まで「The Miracle」を聴いたことがない人は、CDなり配信なりで全曲聴いてもらうべきですが、持ってる人ならアナログもおすすめ。まず、当時のCG技術でがんばって合成したジャケット写真が見ものです。顔の合成は見事ですが、髪の毛、とくにブライアンのモジャモジャに苦労の跡が見えます。そして背景の荒さ、改めて思う「なぜこの色、そして空」という疑問など、12インチサイズでないとスルーしてしまいそうなところも結構じっくり見てしまいます。目で埋め尽くされた裏ジャケもなかなかのインパクトです。

音質は、A面のバンドサウンドは意外に引っ込んでいて少し物足りなく感じますが、それでも音に立体感と重量感はあり、しっかりと情報が刻まれています。”Invisible Man”あたりからはシンセの音がガッツリと前に来て、B面以降はレコードで堪能するに足るサウンドが楽しめます。

とは言え、デアゴスティーニ盤が絶対おすすめ、というほどではないので、聴いたことのない人はまずは全長版を聴いて、「QUEEN」も聴いてさらに余裕があるなら選択肢に入れてもいいかな、という程度でしょうかね。

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