QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回は映画「テッド」でお馴染みのゴミ映画のサントラ「Flash Gordon」です。
「Flash Gordon」は元々コミック・ストリップ(新聞漫画)で、1930年代に映画化されていたものをジョージ・ルーカスが少年時代に夢中になっていたらしく、彼が映画監督となった時に本作の映画化を希望していたそうです。しかし権利問題で叶わず、それが結局「Star Wars」になったんですが、これが誰もが予想しなかった空前のヒットとなり、じゃあ「Flash Gordon」やったらもっと当たるだろうという目論見で、「Star Wars」を超えるヒットを狙って2,000万ドルもの予算をつぎ込んで作った、というノリが当時あったそうで、それが伺えるのは、「Flash Gordon」のプレミア上映が行われた80年11月の時点まで、QUEENがサントラを担当していることは秘密にされていたという点でしょう。
前作「The Game」のレコーディングは79年と80年の2回に分けられて行われましたが、それと並行して「Flash Gordon」の作業も始めていました(1回目には準備を、2回目で具体的に始まったようです)。
「Rock Montreal」で書いた通り、The Game Tourは「The Game」、本作、そして”Under Pressure”、さらには「Greatest Hits」をも包括する、1年半に及ぶQUEEN史上最長のツアーですが、合間に休暇もあり、80年10月にはスタジオに戻り、「Flash Gordon」を(極秘裏に)制作していたようです(”Play the Game”のシングルリリースが80年5月ですから、フレディがミュージック・ビデオで「FLASH」のTシャツを着ていたのは、もしかすると映画上映前だったのでしょうか)。
11月のプレミア上映とともに、QUEENがサントラを担当したことが発表、翌12月にサントラがリリースされるのを待たず、11月後半から始まったThe Game Tourのヨーロッパ編で、早速”Flash’s Theme”をはじめとして、サントラから数曲が披露されています。
というわけで、QUEENとしてはかなりハードワークな中でも気合いを入れたプロモーションが行われていたようですが、ご存知の通り、映画は不発。サントラの売れ行きも芳しくなく、結果的に「失敗」と見られることとなりました。
ただ、はっきり言ってサントラは映画のためのものなので、サントラ単体で楽しめる必要もないですし、映画がつまらないのにサントラが素晴らしい、ということは別に誇らしいことでもありません。ですから、このサントラをQUEENの公式スタジオ作品として同列に並べること自体がそもそもおかしいのではないかと思います。
正直、つまらないアルバムです。QUEENの4人がシンセを駆使して全力で映画のBGMを作ってみたら、誰が作ったのかよく分からない謎の映画音楽が生まれてしまった……というのが大半で(フレディが作ったニューウェーブっぽいディスコ・サウンドは面白いですが、それも「これバンドでは絶対やらないな。Hot Spaceもさすがにここまでは行ってないもんな」という見方をするから面白いだけです)、あとは歌もの2曲”Flash’s Theme”、”The Hero”のバリエーションというサントラの定石に則った作曲が行われていて、「まあ、サントラってこんなもんだよな、だからサントラなんて普段聴かないけど」という僕のようなQUEENファンが我慢して聴くかそもそも買わないかの2択だったのでしょう。評論家のもっともらしいレビューもありますが、全然共感できません。だって今改めて聴いてもつまらないもの。
映画製作者側からの要望はほとんどなく、メンバーが好き放題できたとのことで、それが裏目に出た、と言えなくもないですが、前述の通り「サントラってこんなもん」だと思うので、失敗作でもなんでもなく、ごく普通のサントラですよね。以上。トイう代物だと思うんですよね。
でも”Flash’s Theme”は素晴らしいです。この1曲だけ良いです。これだけ聴きたいなら、ミュージック・ビデオで使われた、サントラ収録のものよりもカッコ良いバージョンが聴ける「Greatest Hits」を買えば良いです。いや、「Rock Montreal」のバージョンの方が演奏も素晴らしいし、音質も最高なので、こちらで堪能すべきかもしれません。
というわけでデアゴスティーニ盤の話をするまでもない……と思っていたんですが、意外にもシンセの音が良くてびっくり。ツマミをいじるフィジカルな感覚が伝わってくるような生々しさがあります。オーケストラの音は歪んでるし、歌モノは全体的に引っ込んだ感じがあるし、どちらもインパクトが薄いですが、シンセの音は絶品でした。そんな盤でした。そんな盤でも2,000字ぐらいは書くことがあるんだなと驚きました。