【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】16枚目:マッチョ期の入り口にして好録音「News of the World」

デアゴスティーニ盤「News of the World」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回はQUEEN史上最も有名な曲で始まる「News of the World」です。

“Bohemian Rhapsody”を知らない人でも、おそらく”We Will Rock You”はご存知ではないでしょうか。そしてコンサートでは毎回メドレーのように続けて演奏される”We Are the Champion”。そして、それに続くストレートなハードロック・ナンバー”Sheer Heart Attack”と、冒頭3曲のムードに象徴されるように、前作「A Day at the Races」までの耽美なイメージをひっくり返し、ソリッドで、ストレートなサウンドに方向転換しました。

分厚く派手なコーラスも筋肉質になり、対位法的なハーモニーは排除。サウンドも素材の良さをそのまま録ったパンチの強い音で、端的に言って、後のフレディのパブリックイメージとなる「短髪+口ヒゲ」に象徴されるマッチョ路線は、音楽的にはここからスタートしています(また、楽曲のシンプルさはこの後も引き継がれ、QUEENらしさと言える音楽的特徴は全てシンボリックなものとなることで、この後10年以上にわたり、彼らはオリジナリティと自己模倣の間をギリギリで滑空していくことになります)。

フレディの声は太く激しく、それまで垣間見せていたフェミニンな要素はほとんど姿を見せません。それに加えて、初期ハード・ロック時代には予算とテクニックの問題で十分満足する完成度に至らなかったものが、ここにきて様々な条件が揃い(本作ではバンドメンバーによるセルフプロデュースも行っている)、理想と現実が合致した上でのハード・ロック・アルバムとして完成したという意味でも、よくぞ作ってくれたと言いたくなる出来です。

何より特筆すべきはロジャー・テイラーの活躍ぶりでしょう。作曲においてここまでろくな仕事をしてこなかったロジャーですが、各メンバーが均等に佳曲を投入する本作で、ついにその才能を開花させます。前述の”Sheer Heart Attack”は、同名アルバム制作時から用意されていた楽曲ですが、絶好のタイミングでアルバムに収録されたと言えるでしょう。「Live Killers」のテイクも最高ですが、本作でのシンプルなリフが徐々に音圧を上げていき、耳を弄するような爆音でバッサリ切れて、クラクラする余韻を残す演出、その音圧の中でニューウェーブよろしくヘロヘロと歌うフレディーの組み合わせは、彼ららしい遊び心とロジャーのロック気質が見事にマッチしています。

そしてロジャー歌唱曲の中での最高傑作とも言える”Fight from the Inside”。ワイルドなリフと、挑みかかるようなロジャーの歌が実に渋いです。”Another One Bites the Dust”のドラムスを、同じフレーズを繰り返すだけだと嫌がっていたとされていますが、本人がその先鞭を切っていたとも言えるわけで、シンプルなだけに鳥肌が立ってくるというこの異形の楽曲は、本作中でも突出していますし(”Get Down, Make Love”も突出してはいますが、悪い形で突出した失敗例だと思います)、後のディスコ路線を予告する意味でも非常に重要な楽曲だと思います(でも音楽的にはJudas Priestっぽいところが面白かったりして)。本人も手応えを感じたのか、次作「Jazz」では同様の路線で2曲提供していますが、よりファンク要素も増やし、実にいい出来栄えなのに、いざ「The Game」を作る段になったら、お株をジョン・ディーコンに奪われて、自分は信じられないほどつまらない曲を2曲も提供するという不甲斐なさ……。

本作で作曲の中心となっているブライアンはもちろんのこと、ジョン・ディーコンによる”Spread Your Wings “、”Who Needs You”が素晴らしく、そしてロジャーもいい仕事をしているその陰で、フレディが作曲の貢献度において少し引っ込み始めているのが興味深いところです。”We Are the Champions”があるとはいえ、前作までの、息を飲むような圧倒的な楽曲は無くなり、壮大な実験による大外し(”Get Down, Make Love”)とおまけのような曲(”My Melancholy Blues”)で収まってしまっていて、耽美な要素をなくした直後は、それなりに身の置き場のなさを感じていたのかも……と想像を掻き立てられます(しかし、同じくハード・ロック路線な次作「Jazz」では完全に順応して名曲を神懸かり的に連発するのですから、この人、やはり凄すぎます)。

さてデアゴスティーニ盤。「Works」から気になってましたが、ケースに厳重に梱包されてるわりに、中を開けるとジャケットに何箇所か大きな凹みがあるので、開封直後に結構テンションが下がります。アートワークはアナログで見るべきクオリティのイラストですので、12インチで持っていて損はないですが、品質を考えると、他で買うか、美麗な中古盤を買うか、数年前に出た40周年記念箱 を買ったほうがいいんじゃないかという気がします(こちらのマスターは2015年リマスタリングのデジタルデータではなく、オリジナル・マスターから起こしているらしいです)。

音質については、録音の良さが生きたサウンドが楽しめるものになっていると思います。前作までの、踏み込みの甘い褪せた音でもなく、「Works」以降のぼやけた遠い音でもない、楽器の音が直接飛び込んでくるようなリアルでパンチ力のある録音は、アナログ盤で楽しむにうってつけです。エッジの効いたサウンドながら、荒削りのラフさが過剰になりすぎず、意外にきめ細やかな音作りがされているのもQUEENらしく、また、デアゴ盤のハーフスピードマスタリングの効果が出ている点ではないかという気もします。

QUEENをハイファイ的に楽しめる作品は数少ないので、本作は是非ともアナログ盤でお楽しみいただきたいところです。

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