【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】14枚目:意外に凡曲揃いな「The Works」

デアゴスティーニ盤「The Works」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回は、QUEEN転換期を象徴する一枚「The Works」です。

前作にあたる「Hot Space」が、売り上げ的にも評価的にもすっかり外してしまい、自分たちにブラック・ミュージック路線が求められていないことを思い知った彼ら(というかフレディ)は、おそらくキャリア中初めて、「世間の評判を見て方向性を決める」という判断をしました。初期には、自分たちのやりたいことをやりたい放題やり、大ヒットを生み出してからも、同じ路線で二匹目のドジョウを狙うようなことをせず、常に新しい要素を取り込みながら作品を作り続けており、その前に突き進む姿勢こそが、彼らのあまりに個性的なサウンドを維持しながらも自己模倣に陥ることのない、重要な戦略でもあったわけですが、本作でついに闇雲な前進を止め、やや滞留し始めます。

バンド内の熱気も史上最も冷えている状態で作られた本作は、彼らがバンドとしてのピークを終え、折り返し地点に差し掛かったことを象徴するような作品だといえます。前作までは漲っていた張り詰めた緊張感や熱気はすっかり引いて、代わりに隙間のある演奏や80年代的なドライな音作りが主体となっています。それは、QUEENが血気盛んな若者バンドから、ベテランの大物中年バンドへと切り替わったことを示しているといえるでしょう。もう”Staying Power”のような挑戦はしないし、”Stone Cold Crazy”のような演奏もできない、でもなんかスケール感のあるサウンドで、QUEENらしいとしか言いようのない曲を、まったり聴かせるバンドへと変貌したのです。これは、「Hot Space」ツアーのライブ音源と、「Works」ツアー、もしくはライブエイドでの演奏を聴き比べても歴然です。ここでQUEENは終わったともいえますし、後期QUEENのスタートだともいえます。そして結果的に、「A Kind of Magic」や「The Miracle」という傑作を生み出すことになります。

世間的には、「Hot Space」の不評と、”Radio Ga Ga”のヒットの影響で、「名盤」として見られている作品だと思いますが、よくよく聴いてみると、結構退屈なアルバムです。まず冒頭の”Radio Ga Ga”。本ブログでも「捨て曲要員」「駄曲生産機」「辞書で”捨て曲”を引いたら”ロジャー・テイラーのこと”と書いてあった」などと散々こき下ろしてきたロジャーが、ついに念願のヒット曲を生み出すことに成功したわけですが、この曲からして、当時彼らがなぜ本作で「QUEENが戻ってきた」と歓迎されたのかよくわかりません。印象的なシンセベースは、「Hot Space」の延長とも言えるし(しかしジョンのベースは、シンセに紛れてかなりアクロバティックなフレーズを連発していて、ライブバージョンでもタイトなリズムをキープしつつ遊びまくってるので、非常に面白いです)、「Hot Space」から覇気を無くしたとも言えるこの曲が大ヒットし、レディー・ガガの名前の由来にすらなったというのはなぜだったんでしょうか。そしてロジャーには悪いですが、本作の他の楽曲の平均点が低いために、ロジャーの楽曲が浮上してきてしまった、とも見えるのです。しかし、キャッチーなサビとリズムだけで、複雑な要素を削ぎ落としたこの曲は、その後のQUEENの方向性を示唆しているし、何より、映画「メトロポリス」を題材にしたミュージック・ビデオの存在が、MTV時代の潮流の中で大きな効果を発揮したのでしょう。

このミュージック・ビデオの効力は顕著で、某映画でも再現されていた”I Want to Break Free”での女装、阿呆らしいほどに豪華絢爛な”It’s a Hard Life”が本作の印象をかなり底上げしているはずです(”I Want to Break Free”のミュージック・ビデオはアメリカで放送禁止になったらしいですが)。”I Want to Break Free”は当時英語圏外でも「自由への賛歌」としてヒットしたらしいですが、それも彼らが歌詞にそのような強いメッセージを込めていたとは思えず、ミュージック・ビデオ経由での大ヒットにより楽曲が広く知られた結果、好意的な解釈によって不可抗力でヒットしたのでしょう。

ブライアンによるロック・チューン”Tear It Up”、”Hammer to Fall”の精彩を欠いたまったり具合、”Man on the Prowl”の(”Crazy Little Thing Called Love”)二番煎じ感、”Machines (Or ‘Back to Humans’)”の「これぞロジャー」と言いたくなるつまらなさ(フレディが様々なコンピュータ用語を歌っているという意味では面白い)、”Keep Passing The Open Windows”の、フレディ作曲とは思えない煌めきのなさ……と、結構凡庸な曲が多く、「Hot Space」に文句言ってた人がよくこれで納得したなと思う仕上がりです。

本作で聴くべき曲は、”Radio Ga Ga”、”It’s a Hard Life”、”Is This the World We Created…?”ぐらいだと思いますが、膨大な予算をかけて作ったミュージック・ビデオとLIVE AIDへの出演によって、本作はQUEENの復活作として象徴的な存在となりました。実際はビデオが素晴らしいだけであったり、LIVE AIDもウェンブリー・アリーナのオーディエンスが素晴らしいだけでパフォーマンスは褒められたものではないという事実は、まるで魔法のようにかき消され、それによって当時分裂寸前だったQUEENは完全復活を遂げたのですから、あまり本作を否定するのも良くないかもしれません。また、”I Want to Break Free”をめぐるエピソードは、QUEENが実態よりもシリアスに捉えられていたのは、フレディが他界する以前から起こっていたことだということを知る意味でも、重要な作品だと言えるのではないでしょうか。

さて、デアゴスティーニ盤ですが、前述のように本作からQUEENのサウンドは「80年代的なドライな音作り」となり、楽器の存在感は遠のき、ドラムの音は非常に薄っぺらくなってしまっていて、音の良し悪しだけで言えば、高い金を出してまでアナログ盤を買う価値はありません。が、アートワークに関しては別です。僕はこれまでCDでしか本作のアートワークを見たことがなかったので、単にメンバーが並んで座ってる、なんてことのない写真だと思っていましたが、LPサイズで見ると、その存在感に圧倒されます。自信に満ちた目力のある4人の表情を見ているだけで胸が高まり、背後に色濃く映る影とのコントラストが生み出す力強い印象に、みるみるうちに引き込まれてしまいます。このジャケットを鑑賞するためにアナログ盤で手元に置いておくのは、悪くない選択ではないでしょうか。

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