【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】24枚目:QUEENらしさ全開の大名盤「Jazz」

デアゴスティーニ盤「Jazz」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。今回はQUEEN円熟期の妙技が光る名盤「Jazz」です。

前作「News of the World」は装飾をそぎ落とし、ブライアン・メイのカラーが強いハードでソリッドな作品となっていましたが、本作ではフレディ色が再び濃厚となり、サウンドも前作のハードさを残したまま、煌びやかなQUEENらしさも復活しています。

まず誰もが驚かされる”Mustapha”。英語、ペルシャ語、アラビア語を織り交ぜて作ってそうで、歌詞カードにもこの曲だけ歌詞が載せられていません。今となってはネット上で歌詞も見つけられますし、和訳に挑戦された方の日本語詞も目にすることができますが、歌詞を載せなかった時点でフレディが内容を伝える気がないのは明白で、重要なのは言葉の響きだったのだろう、ということは、”Bohemian Rhapsody”の中間部と並べると、互いにそういう理解で補完しあえるのではないかとも思えます。それより何より、とにかく曲が良い。演奏のキレも良いし、緊迫感を煽ったまま短時間で終わってしまうのも良い。この曲は、「Live Killers」で聴けるように、「Jazz」ツアーではイントロ部分を”Bohemian Rhapsody”の前に歌う、という程度でしか披露されず(最終公演では演奏されていた模様)、その後の”Crazy Little Thing Called Love”リリースに伴うUKツアー、The Game Tourの前半で演奏されているので、ライブテイクが公式にリリースされていないのは残念ですが、特殊な曲のため、その後セットリストに入りにくくなってしまったのも分からなくはありません。

“Fat Bottomed Girls”で順当な仕事をするブライアンは、本作では本曲のロックンロールサイド、メロウな側面、”Dreamer’s Ball”、”Leaving Home Ain’t Easy”に加え、QUEEN史上最強のファストチューン”Dead on Time”で、アドレナリン全開の疾走を見せてくれます。”Keep Yourself Alive”や”Stone Cold Crazy”をベースにしながら、よりテクニカルに、より激しく、より巧みに構築されていて、彼らのパフォーマンス能力がピークを迎えていることが伝わってきます。

フレディはさらに”Bicycle Race”、”Don’t Stop Me Now”のQUEEN2大クラシックスを生み出していますが、特に”Bicycle Race”では一旦落ち着いていた対位法的なコンポージングが、複雑な曲構成とともに織り込まれていて、特にジョンのベースプレイのメロディアスさには心踊らされます。

そのジョンのベースプレイは、意外に人気の薄いフレディ作”Jealousy”でさらに美しく響き、アウトロでの余韻にはもううっとりしてしまいます。作曲面でも、”If You Can’t Beat Them”、”In Only Seven Days”と手堅いヒットを打ってきます。

そして問題児・ロジャー・テイラー。”Another One Bites the Dust”や「Hot Space」を先取りしたような”Fun It”、前作収録の名曲”Fight From the Inside”路線を踏襲しつつ、唐突に本作収録曲のサンプリングまでやってしまう”More of That Jazz”と、どちらも独自路線を突き進んでいますが、確かなクオリティを見せているところに成長を感じます。それだけに、なぜ彼が次作「The Game」で”Another One Bites the Dust”に不満を示しておいて、自分はポンコツな曲しか提供できなかったのか、とても不思議です。というわけで、大きく才能を開花しかけた彼は、まだまだ千鳥足なのでした。

要するに本作は、彼らのキャリア中でも最多の収録曲数でありながら、楽曲のクオリティがおしなべて高く、また、やりたいことと彼らのテクニックとコストの問題が解決できた(なにせこの時にスイスのモントルーにあるマウンテンスタジオを買い上げているぐらい)ことで、どこからどう見ても文句のつけようがないほどの完成度を誇った名盤なのです。初期のハード・ロック要素や耽美な要素も洗練された形で組み込まれていて、全アルバム中でも特に「QUEENらしさ」が強い作品とも言えるのではないでしょうか。QUEEN初心者に何か一枚勧めるとしたら、本作が良いかもしれません。

しかし、なぜかHot Space Tour以降ライブでほとんど取り上げられることがなく、「全てのアルバムから必ず1曲は取り上げる」とまで言っていたThe Works Tourでも”Mustapha”のイントロを歌うにとどまっていました。なぜでしょう。結構気合入れて作り込み過ぎて、ライブで再現するのが辛かったのでしょうか。まあ”Bicycle Race”なんて「Live Killers」のあんな感じですしね。

さて、デアゴスティーニ盤。まず重要なのは、例の「全裸女性たちによる自転車レース」のポスターが封入されているところです。良かった。ジャケットはコーティングされていないやや粗めの紙で、心地よい手触りです。

この2015年マスターは、”Mustapha”のサビに入る瞬間にギターが入ってゲインの上がる演出により強いアクセントをつけていて、ヴァースの弱音のところがより小さく感じるんですが、そのせいかヒスノイズが目立っていて、ちょっと気になりました。”Let Me Entertain You”でも同じゲイン差の演出が入っているのが、アナログだと鮮明に感じます。その分、大きくなったり小さくなったりして、やや不安定な印象もありますが。

しかし楽器の音は前作のソリッドさに加えて適度に装飾もされていて、音のリアリティとバンドの立体感、音の分離のバランスも良く、スピーカーに向かってじっくり耳を傾けるに適した録音でした。内容も素晴らしいし(例のポスターもついてくるし)、これはアナログで持っておくべき1枚でしょう。

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