【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】9枚目:必聴!「Sheer Heart Attack」

デアゴスティーニ盤「Sheer Heart Attack」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。9枚目となる今回は、次のステップに向けての変化によって様々な要素が混ざり合ったカオスなアルバム「Sheer Heart Attack」です。

前作「QUEEN II」が非常に完成されたコンセプトアルバムで、本作の次に来る「A Night at the Opera」がスキゾ的な怪作であり、間に挟まれた本作は、両者の要素を混ぜ合わせたような、過渡期らしい作品になっています。

“Tenement Funster”〜”Flick of the Wrist”〜”Lily of the Valley”のメドレー形式は前作の「SIDE BLACK」を踏襲していますし、B面を”In the Lap of the Gods”でサンドしているところも、”Seven Seas of Rhye”が前作でリプライズしているところを思い起こさせます。

ジョン・ディーコンによる初の作曲”Misfire”(1曲目にしてこのクオリティです。一方でロジャーは3曲目にして”Tenement Funster”というしょうもなさ。なぜもっとジョンに頑張らせなかったんだ初期のQUEEN)、次作の”Seaside Rendezvous”、”Good Company”の布石のような”Bring Back That Leroy Brown”の2曲は「A Night at the Opera」前夜であることを感じさせます。

それでいながら本作は、1stアルバムをも凌駕するギター・ロック・チューン”Brighton Rock”、”Now I’m Here”、”Stone Cold Crazy”が勢いの良さを牽引しているとも言えるでしょう。

そして忘れてはならない名曲”Killer Queen”。前作からさらに進歩した対位法的メロディの折り重なりが実に妖艶で美しく、後半でのブライアンのギターも、ソロのみならずサビのバックでのフレージングにいたるまで考え抜かれています。徐々に頭角を現し始めたジョンのベースも、この辺りからいよいよ”色気”を醸し出し始めていて、短いながらも聴きどころがありすぎて、何度も繰り返し味わえる会心の作品です。この耽美なムードと”Bring Back That Leroy Brown”が生み出す演劇的なムードが、本作のドラマティックな要素とハード・ロックな要素を攪拌し、全体的に騒々しくも楽しい、一種シアトリカルなイメージを生み出していて、次作、そして今後のQUEENのスタイルを方向付ける役割を担っています。

こう書いていると、非常にまとまりのない未完成な作品のように思われるかもしれませんが、それが一つの作品として、しかもコンパクトにまとまって聴けるところに、初期QUEENの腕力の強さが出ています。本作はそんな若さゆえの勢いと力技のすごさを味わえる作品とも言えるでしょう。特に、1stでの音質的な問題をクリアした上での”Stone Cold Crazy”のメタリックなギター・リフ(僕がこの曲を初めて聴いたのはMETALLICAのカバーバージョンでした)や、「A Night at the Opera」でテンポが落ち着く前の”Bring Back That Leroy Brown”におけるつんのめったスピード感と様々な要素が矢継ぎ早に飛び出すことで生まれる高揚感(ライブでの、ブライアンがウクレレとギターを大急ぎで行き来する様は見ものでした)など、本作の瞬間だからこそ生まれた、「ハード・ロック・バンドとしてのQUEEN」の理想形のようなアルバムです。凡百のロックバンドだったら、この路線であと何枚かアルバムを作ってたかもしれませんが、幸か不幸か、同じことの繰り返しを良しとせず、新しいことをどんどん取り込みたかった当時の彼らにとっては、本作もひとつの通過点と考えていたのかもしれません。もちろん、キャリア後半までライブで好んで取り上げている楽曲が多いアルバムという点に注目すれば、彼らが本作をどれほど気に入っていたかは想像にかたくありません。

さてデアゴスティーニ盤ですが、これはすごいです。CDで本作を聴いていた時には音質にパンチがなかったので、ややぼやけた印象があったんですが、デアゴ盤だと音が非常に太く、切れ味もあり、一つ一つの音の説得力が全然違いました。また、A/B面切り分けると、本作におけるコンセプトも輪郭がはっきりし、彼らが本作に込めたことがより伝わってきます。完璧だと思われた前作からの成長が確実に感じられます(ロジャーの作曲能力以外は(彼の作曲によるアルバムタイトル曲は、この時完成せず、後に「News of the World」に収録されますが、”Tenement Funster”じゃなくてこっちが入っていれば彼への評価も変わっていたと思うんですが))。レコードで聴き直して本作に惚れ直しました。”Dear Friends”ってこんなにいい曲だったのかあ、とか。デビュー前からレパートリーにあった”Stone Cold Crazy”も、よくぞこのタイミングで録音してくれたという、適度なクリアさと絶妙なザラつき感。QUEENは最後までハイファイな録音には至らなかったですが、ローファイさと音楽の方向性が最もバランスしてるのは本作かもしれません。

ジャケットは、元の写真の問題なのか随分と粗い画質ですが、大事なのはむしろ、真っ赤なブッ太いタイトルの方です。このタイトルが、全てを物語っています。QUEENファンなら、本作のアナログ盤はマストアイテムでしょう。

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