【デアゴスティーニ盤で聴くQUEEN】12枚目:耽美QUEENの完成形「A Day at the Races」

デアゴスティーニ盤「A Day at the Races」
QUEENのデアゴスティーニ盤のリリース順に、各作品の内容、そしてデアゴスティーニ盤の評価について書くシリーズ。12枚目は、名曲揃いの大傑作「A Day at the Races」です。

本作はQUEENのキャリア上は5枚目、つまり「A Night at the Opera」に続くアルバムですが、作曲自体は本作とほぼ同時期にされていたもので、本人たちも同時にリリースしたかったらしく、タイトルもジャケットデザインも対になっており(白と黒、というところが「QUEEN II」らしくもあり、”White Man”のメロディで作られたアルバムのイントロがアウトロになっていて円環構造を思わせるとか、当時の彼らがコンセプチュアルな打ち出しに凝っていたことが伺えますね)、非常につながりを感じさせる外観ではあります。

内容も、「A Night at the Opera」路線と言えばそうですが、そこまで過激さや歪さはなく、楽曲ごとにしっかりとまとまっていて、曲順も順当。アバンギャルド一歩手前まで来ていたQUEENですが、メーターを振り切ったおかげで掴んだものは大きかったようです。

何を掴んだかというと、それは、今に至る「QUEENらしさ」です。これまでは、あんなこともできる、こんなこともできる、と、無邪気に実験を繰り返していたところがありますが、「A Night at the Opera」で、特に”Love of My Life”、”Bohemian Rhapsody”で自分たちの得意とするところ、誰にもできないこと、勝てるところがわかったんじゃないかという気がします。そして、「QUEENらしさってこれかも」という部分を改めてじっくり煮詰めたのが本作に結実しているのではないでしょうか。

1曲目”Tie Your Mother Down”。”Sweet Lady”で若干空振りをしたものの、ミドルテンポのハード・ロックを突き詰めてこのリフを導き出したブライアンは偉い。QUEENのハード・ロック・ナンバーとして、この後完全に定着するのも当然という、クラシック感溢れる名曲です。

“You Take My Breath Away”は、”Love of My Life”をよりシンプルにまとめたような楽曲ですが、この「シンプルにまとめた」というところがまさに彼らがQUEENらしさを掴んだな、と思わせるところで、前作で行われたような数々の実験が鳴りを潜め(本曲のエンディングはちょっと小細工されてますが)、バンドサウンドとコーラスワークに絞ることで、徹底的に完成度を高めています。これは”Bohemian Rhapsody”の成功によって、「自分たちはバンドサウンドとコーラスワークのみでオーケストラにも負けない音楽が作れる」という自信をつけたからではないでしょうか。

“Long Away”は、”’39″からよりブライアン特有のセンチメンタルさを全開にしたナンバーで、その後も”All Dead, All Dead”、”Sail Away Sweet Sister”、そして”Who Wants to Live Forever “まで引き継がれる、ブライアンの声の魅力と最もマッチした路線として、アルバム内で重要な要素です。

そして白眉の”The Millionaire Waltz”。幸か不幸か、QUEENというバンドは、フレディの歌、ブライアンのギター、そしてコーラスワークが大きく取りざたされる分、他のインストゥルメンタル・パートに注目される機会が少ないですが、本曲はピアニストとしてのフレディ、そしてジョン・ディーコンのベースが堪能できる曲でもあります。特にイントロのベースラインのすばらしさ。このベースとピアノのハーモニーだけを聴いてもたまらないものがありますが、歌が始まってもバックで通奏低音のように鮮やかに舞い続けるベースのフレージングには鳥肌が立ちます。加えてゴージャスなコーラスもスピーカーを飛び交うギターオーケストレーションも、ワルツを単なるパロディのネタとして使うのではなく、QUEENの楽曲として作り上げているその腕前は、短期間でありながら、前作から格段に成長を遂げている(もしくは、前作ですっかりコツをつかんだ)ことがうかがえます。

続く”You and I”の佳曲としてのジョンのそつのなさは、”You’re My Best Friend”的ですし、”Misfire”的でもありますが、この「気が利いてる」具合は、その後もQUEENの作品のレベルを底上げしていくことになります。

そして歌うベース、さらに対位法的なアプローチは、彼が音楽的にはフレディの影響を強く受けており、後にはブラックミュージックという共通点を軸に3人の中でも最も多く共作を行うという流れを示唆しています。

つまり、前述の「掴んだ」で言えば、ジョンは本作で、リズム楽器としてのベースパートを堅実に担いながら、時に声楽パートのように歌い上げるような旋律線を描く対位法的アプローチを見せるという、楽曲に合わせた当意即妙な奏法を完成させ、作曲家/ベースプレーヤーとしての個性を確立したと言えるでしょう。特に次作以降、フレディの対位法的アプローチが後退する中で、ジョンのベースはかえって旋律的なフレーズに磨きをかけていくのは、後期QUEENの大きな聴きどころでもあります。

そして、みんな大好き”Somebody to Love”。分厚いコーラス、対位法的ハーモニー、ピアノを弾き語るフレディー……と、QUEENの耽美的なスタイルの最高潮です。今となっては、フレディの歌い手としての凄さは説明するまでもないですが、実は彼の歌唱力が今のように認識されたのって、この曲ぐらいからではないでしょうか。

1曲目の路線をさらにヘヴィにした”White Man”に続いての”Good Old Fashioned Lover Boy”は、”Bring Back That Leroy Brown”を洗練したような曲ですが、耽美的なQUEENの完成形とも言える妖婉さです。主旋律で歌われる歌詞の上に別の歌詞と旋律が対位法的に重なり、絡み合いながら進む美しさは、フレディが挑んだクラシック的なハーモニーとしてはこれ以上のものはないでしょうし、その後、この路線の楽曲は登場することはありませんでした。

玉に瑕、という言葉がありますが、ロジャー作曲の”Drowse”は、まさに本作におけるそれかもしれません。そつなく佳曲が書けるジョンと、臆さず駄曲を作り続けるロジャーは実に好対照に思えます。そんな二人がリズムを支えるバンド、それがQUEEN。

そして最後は”Teo Torriatte”。当時の日本のQUEENファンが号泣する様が浮かぶような楽曲です。ブライアンの胸を締め付けるようなメロディが日本語詞と絡み合って絶品です。

というわけで、随所に現れる対位法的ハーモニーも分厚いコーラスも自家薬籠中のものとし、ロジャーを除く各メンバーがそれぞれ音楽的スタイルを確立したことで、QUEENは彼らにしか生み出しえない音楽を本作において完成させたと言えるでしょう。後に、彼らは本作のような耽美的な路線の作品を一度も作ることなく、次作からマッチョなスタイルに移行し、ソリッドで筋肉質なサウンドを伸ばしていったことは、功罪半ばするところかもしれません。しかし、QUEENとはそういう「違う試みを続けていくバンド」だから素晴らしかったわけで、だからこそ「QUEEN II」、本作、そして「The Miracle」というそれぞれ異質な大傑作が生まれたのですから、やはりそんな「気移りの激しい女王」なところがQUEENの面白さなんですよね。

さてデアゴスティーニ盤ですが、「A Night at the Opera」の際の感想に近い、特筆すべきところがそれほどあるわけでもないけれども、ハーフスピードでマスタリングの効果と思わせるような滑らかさや立体感は感じられる、といったところですが、「A Night at the Opera」ほど奇をてらった演出がない分、バンドアンサンブルの質感がダイレクトに感じられ、オーディオ的な聴き応えは本作に軍配が上がります。アートワークはエンボスなどの特殊加工もないシンプルなものですが、そのシンプルさ、ザラついた画質などがまた良い味わいになっています。買えるうちに買うのが得策ではないでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください