この日はうどん屋の2階で行われた「HOP KEN presents 「ホープ軒」」を観に行きました。
初めて来た場所(というか能勢電車自体初めて乗りました)でしたが、絹延橋うどん研究所といううどん屋さんの2階がライブスペースになっていて、しかも会場内はデザイナーズマンションのようなきれいでおしゃれな雰囲気。壁一面の窓から人の往来する土手や道路、山が見えてとても面白い雰囲気です。
この日はドリンクチケットが「ドリンクorうどん」というサービスになっており、当然うどんを食べたかったんですが、会場入りした段階では下のうどん屋さんが営業中でうどんの用意が遅れるということになり、とりあえずうどん待ちのまま、最初のアーティスト、Alfred Beach Sandalのスタート。
初見でしたが、歌の合間に心地良い沈黙を挟みながら、対位法的に響く歌とギターのメロディが、何故か不思議と耳にすっと入って来て、少し引っかかりながら抜けていく感じ。
歌には、意味が抽象化されて響きだけを耳に残し、歌詞は聴いた端からすり抜けていくタイプ、具体的な言葉やストーリーで確実にイメージを想起させるタイプ、抽象的でありながら言葉一つ一つのチョイスの妙で独特の情景を生み出すタイプなどがあると思いますが、彼の歌は、印象的な響きの言葉を選びながら、物語の抽象性を具象的な語り口で組み合わせることで異界に入っていくようなスリリングな快感があります。
例えばSPANK HAPPYの歌詞は具体性に極端に寄ることで生まれる響きの悪さ、臭みなどを意図的に露出することで「気味の悪いハウス」に仕立て上げられたわけですが、そういった悪意を言葉のチョイスと声質で変異させるとAlfred Beach Sandalのような世界になる……といったところでしょうか。
最後の2曲ではあだち麗三郎クワルテットが参加しての演奏でしたが、1曲目であだち麗三郎が会場外からサックスを吹いていた音のミックス感が半端無く美しかったです。このハコ自体、楽器の生音が非常に綺麗に響く空間で、ボーカルとアコギのマイク以外はほとんど生の響きを生かしていたそうです。
休憩時間に入り、うどんの注文がスタート。コシのある麺がたまらなく美味しかったです。ゆずと大根おろしも絶妙な絡み具合で、お代わりしたくなるほど(すぐに売り切れてしまったのでいずれにしても無理だったと思いますが)。ただ、器と箸が使い捨てだったのが残念です。うどん屋さんなら、そこは簡易なものにしてほしくなかったなぁ。
長谷川健一は「8.15世界同時多発フェスティバルFUKUSHIMA!」以来でしたが、この日も素晴らしい歌声を聴かせてくれました。前回の印象と比べるとやや散漫に感じるところもありましたが、並べて聴けるものでもないので、印象だけのものかも。
トリのあだち麗三郎クワルテットは、ステージ横の控え室のようなところから、布団の中から半身を起こしたような姿勢でマイクなしの弾き語りからスタート。やや人を食ったような演出に少し不安を抱きましたが、バンドをバックに演奏を始めれば、そこはもう唯一無二の幽玄な世界。
身をよじり、顔を歪め、絞り出すように奏でる音は、一定の「型」を連想させない自己完結した流れを見せますが、決して「型」を意図的に破っているのではなく、必然の上に成り立っていることが伺える、均整のとれた美しさをも備えています。
そして彼を支えるバンドメンバーも凄腕揃いで、すべての音が強烈に主張しながらも、全体の統一感、チームワークが見事。特に、歌うように奏でるベースのメロディがバンドの背骨として音をまとめ上げた上で存分に踊っていることがこのアンサンブルのカラーを決定づけているように感じました。
ライブは18時に終了。開演もゆっくりめで、途中たっぷりと休憩時間もあり、詰め込みすぎずにゆったりした時間を楽しむ雰囲気はとても好感が持てました。終わりが早いので、しばらく雑談して帰っても19時台に家に着きました。
うん、みんな休日のイベントはこんなタイムスケジュールでやってくれていいんじゃないかな。3バンドでしたが、物足りなさは無く、かなりの充足感がありました。やはり数じゃなくてメンツでしょう。