この日は旧グッゲンハイム邸で行われた「Sweet Dreams presents Jad Fair + Tenniscoats Japan Tour 2011」を観に行きました。
前日の地震の影響なのか、体調も優れず、気持ちも滅入ったままで、でも、今だからこそ行かなくちゃ……と、足取り重く会場へ。
もしやガラガラでは……という不安も一瞬で吹き飛ぶ、入り口に出来た入場列。みんな、“音楽”が必要なんだよね。
並んでいたらneco眠る森さんと遭遇。お互い、東北地区の知人の心配の話をしました。「ゑでぃまぁこんのまぁこんさんってマサオさん(おとうた通信)に似てますよね。髪質が」と聞かれたんですが、ゑでぃまぁこんのライブはあんまり観ていなかったので顔が浮かばず。
最初のバンドは、そのゑでぃまぁこん参加のユニット・わすれろ草。まぁこんさん、確かに額から上がおとうたさんそっくり。
ゆっくり、静かに、確実に、完璧な音を連ねていくわすれろ草の音は、あまりに美しく優しく、レクイエムのように響き渡り、まるで時間が止まり、全ての哀しみや不安、恐怖から解放してくれる一瞬を生み出し、1時間弱の“うた”に引き延ばしたかのようでした。
会場内は人でいっぱい。小さな子供を連れたお客さんもちらほら。わすれろ草が終了すると、ステージのスペースを圧縮し、入り口ギリギリまで来ていたお客さんを前の方へ移動してもらっていました。
続いてのテニスコーツは、マイクも使わず、歌とピアニカ、アコギだけのシンプルな音での演奏。
先のわすれろ草もテニスコーツも、一切震災については触れませんでしたが、その歌からは、東北に向けてのメッセージを感じずにはいられません。歌詞を見ながら(そして少し間違えながら)の「上を向いて歩こう」では、そんなこちらの思いを見透かされたかのような選曲と心揺さぶられる演奏に目頭が熱くなりました。
最後のJad Fairソロは、チューニングもままならないギターをエアギターのような適当弾きで見当外れの音を出しながらの熱唱。楽しい、面白い、そしてカッコいい。全部の音が外れた「ぺな、ぺな、ぺな」というギターソロには笑いが止まりません。
悲壮な気分が吹き飛ぶような快(怪)演。どこまで行っても“音楽”って楽しいよね、と全身で表現しているようでもありました。
最後はネックが折れて(というか外れて)演奏終了。アンコールで再びテニスコーツとセッションして、この日の演奏会は幕を閉じました。
昔、フランク・ザッパは「音楽にユーモアは必要か」と題した作品を発表しました。彼の音楽を好む人なら誰もが「勿論」とうなずくような言葉ですが、考えてみれば、どれだけシリアスに演奏しようとも、音楽には拭いきれないユーモアが潜んでいるはずです。だって、言葉に節つけて、普段より大きい声出したりするんですよ。鍵盤を押したら「ぽーん」って鳴るんですよ。弦を弾いたら「ばいーん」って言うんですよ。
笑っちゃいますよね。
そんな、宿命的に持っている“ユーモア”が聴く人に何かを伝え、どこかで“救い”になるんだろうと思います。
音楽では腹も膨れないし雨も寒さもしのげない。でも、食べて寝るだけじゃ生きていけない人もいっぱいいます。
この日の塩屋の洋館に漂っていたあたたかな空気を、僕は一生忘れません。
僕には、音楽が必要だ。
His Name Itself Is Music | |
Jad Fair
Fire Records 2011-03-15 |