オルケスタ・リブレでの客演があまりにも素晴らしかったので、旧グであの歌を聴きたいと思い、冬の塩屋へ。
会場のお客さんは大半が女性。熱心なファンの人たちが集まっているという感じでした。
開演時間になると、フロントアクトにペ・ド・グが登場。北村大沢楽隊を彷彿とさせるグラグラ感と前のめりな勢いは健在。曲目は、ラモーンズ、米米、日本の人、マイケル・ジャクソンとおなじみのレパートリーでした。
ペ・ド・グの後、間を空けずに柳原氏の登場。4年前の初ライブの際は、ピアノのポンコツ振りに手こずったそうでしたが、今回はしっかりリペアされた安定のコンディションで、冒頭からガンガン弾きまくるロックンロールなビートでご機嫌に飛ばします。
歌はオーソドックスなラブソングからエグめの男女関係を語るものもあれば、さらっとシニカルな言葉が流れるものもあれば、ねちっこく毒を吐くものもあり、どれもシンプルでストレートな言葉の強さにハッとさせられます。ストレートでありながら、ベタな表現に感じず詩的な鮮やかさを失わないのは、美しく上品な柳原氏の声の奥にメラメラと燃える壮絶なエモーションを秘めているからでしょうか。
MCでは、田端義夫バージョンの“ズンドコ節”演奏前に、「氷川きよしが初めて買ったCDは“さよなら人類”だった」というちょっとした自慢話や、「バディ・ホリーの曲を和訳して録音しようとしたら版権元から訳詞がダメだとNGを喰らった。その版権を持ってるのがポール・マッカートニーの音楽出版会社で、彼が税金対策で作った版権会社。嫌な感じ」といった蘊蓄(毒入りの)、そして東北の障害者施設でライブをした際、施設の子供たちとの音楽を通しての交流で感動したこと、子供の頃、父と神戸の辺りに旅行に来た際、父がナンパしていたのを見てショックで寝込んだ話など、どれも聞き捨てならない興味深いエピソードばかりで、思わず前のめりに聴き入らずにはいられませんでした。
本編ラスト3曲とアンコール1曲でペ・ド・グが参加。4年前も共演していたようですが、僕は初見。あの唯一無二・独立独歩、誰かと合わせるどころか自分たちでも合わさっていない超弛緩アンサンブルがどんな絡み方をするのか想像がつきませんでしたが、凛としたピアノと歌声に、あのトランペットの合奏とガチャガチャと鳴らされる様々な笛太鼓が不思議なほど自然とマッチしていて、実にいい心地。別に急に演奏が安定するわけでもないし、柳原氏も思わず苦笑するほどの外し加減だったんですが、それが失敗にも聴こえないし、アバンギャルドにも聴こえない。なんと表現すれば良いのか、“なんかいい感じ”という言葉しか思い当たらないんですが、彼らの謎の自信と迷いの無さで生み出される真っすぐな音が柳原氏のエモーションとすごくマッチしているのかも知れません。
旧グの音響は、余分な残響も過度な吸い過ぎも無いナチュラルな響きをしますが、ピアノ/ギターと声のバランスも絶妙で、後方中央にモニタースピーカーを一台置いているだけで生み出されているとは思えないほど、一切ストレスを感じないクオリティの高さでした。
それは、後半でペ・ド・グが参加しての演奏時も同じで、様々な鳴り物を持ち出して賑やかに音を出していても、柳原氏の音とぶつかって潰れたり飛ばされたりすることが全然無く、見事に一体化していました。両者の音が相性良く協和して聴こえたのは、この音響の力もあったのでしょう。
途中休憩を含めて約2時間のステージ。「10年振りぐらいに(歌っていて)声が嗄れた」という柳原氏の熱唱は、とは言え暑苦しくはなく、保守化する年配の方々へ釘を刺すような歯に衣着せぬ歌にも説教臭さがなく、あくまでも颯爽と、しかし確実に聴き手に鋭利なひと突きを残す切れ味に、ある種の爽快感と、関西では風化しつつある原発や震災の問題が首都圏ではまだ強く根深く顕在しているということを再確認させられたような一夜でした。
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