この日はNamba BEARSに非常階段を観に行きました。
ベアーズには珍しく、前売り3,900円という高チャージということもあってか、お客さんの年齢層はかなり高め。山本店長も来ていたようで、終演後に、ステージ後方から楽屋へ消えていく姿が見えました。
1979年8月に結成された非常階段の、丁度30周年にあたる記念すべきライブは、ワンマンながらも趣向を凝らしたイベントとなっていました。
まずはJOJO広重のMCで、この日のライブが二部構成で、前半は四つのセッションが行われることがアナウンスされます(というか、JOJOさんが普通にMCしているだけでも特別な感じがしました)。
まずは、JOJO広重、美川俊治、そしてこの日のライブから正式メンバーになったという、ドラムスの岡野太による3人での演奏。岡野氏は元サバートブレイズとのことですが、スリーバスドラと大量に吊るされたシンバル、というドラムセットの派手さのわりには、このセッションではややインパクトに欠ける演奏でした。しかしその中でも、JOJO氏はひたすら格好良い。指の動き、腰の位置、足の開き具合、ギターの角度、腕を振り上げた時のフォルム、そして、鋭角的に突き刺さってくる、ジャキジャキのギターノイズ。30年間、ノイズの王様として君臨してきた貫禄とオーラを感じます。
続いて、アコギによる小堺文雄の弾き語り。まさか非常階段を観に来て、呟くように歌う内省的なフォークソングを聴くことになるとは思いませんでした。声は良かったですが、ギターはちょっとつたない感じ。
3曲歌うと、次はJUNKOが加わっての、アコースティックのセットのままでのセッション。アコギでもノイズミュージックが成立するという驚き。ハードに掻きむしり、ディストーションのかかっていないギターから激しくノイズを紡ぎだす小堺氏。
ノイズの渦に覆われていないネイキッドなJUNKO氏の声は、超音波のような高音と倍音がホーミーのようにも聞こえる歪んだ中域を往復するような絶叫で、人間の声とは思えない、熱帯の野鳥を思わせるものでした。
最後は美川氏とJUNKO氏のデュオ。最後、JUNKO氏が少しだけはみ出してしまい、「きゃ……」と声を出してしまってたのが可愛かったですね。
短い休憩を挟むと、いよいよ坂田明の登場。JOJO氏が、バンドを始める前に坂田氏がいた頃の山下洋輔トリオのレコードを聴いて衝撃を受け、それをきっかけに即興演奏のバンド(非常階段の前進)を始めたこと、81年の新宿ロフトでの非常階段のライブに坂田氏が観に来ていたことを、その日の演奏後、駐車場でドロドロになった身体を洗いながら教えてもらったこと、今年の3月に坂田氏と海外公演で一緒になった時に本人の口から本当だったことを確認し、「今度一緒にやりませんか」「やろう」とその場で決まり、今日のこのスペシャルセッションが実現したことなどを話し、盛大な拍手の中、坂田氏の入場。
まずはサックス、ギター、ドラムスのトリオでの演奏。最初のセッションであまり良いところが見せられなかった岡野氏が、ここではジャジーなシンバルワークから始まって、坂田氏を強力に後押しする猛烈なドラミング。坂田氏も休むこと無くアルトを激しく吹きまくり、JOJO氏のギターもそれに応じてボルテージを上げていきます。普通のノイズバンドでは聴くことのできない、火花散るインタープレイ。この瞬間、バンドは「異形の坂田明トリオ」と化していました。
最後は、全員登場しての爆音セッション。この日最長のセッションでしたが、岡野氏は先ほどのセッションの勢いを維持したまま凄まじいフィルインを連発し、途中何度か休みながらフリーキーにブロウする左右で爆音を発射するインキャパシタンツの二人、そして、時折マイクに絶叫したりフロアに乗り出したりしながら激しく弾きまくるJOJO氏。ラストはギターアンプを引きずり下ろし、持ち上げたかと思うと、絶叫しながらフロアに突進し、あとに続くようにして、小堺氏がフロアにダイブ。最後、JOJO氏と坂田氏は、プロレスのタッグマッチのように、二人で手をつなぎ、両手を上げて「勝利宣言」。
この日のセッション全般に言えることですが、演奏もパフォーマンスも、とにかくヘルシーでスポーティ。いわゆるアングラで暗くて閉鎖的、というイメージは微塵もなく、非常にカラッとしていて、まるで「普通のロックバンド」もしくは「ロックテイストなフリージャズのバンド」を観ているかのよう。
出演者自身がとても楽しんでいるのがフロアにも伝わっていたからだと思うんですが、特にJOJO氏は本当に楽しそうで、ラストにギターアンプを抱えながらフロアに突進してきた時も、殺気立って威嚇してくるような恐ろしい形相ではなく、まるで楽しさのあまりフロアに飛び込んでモッシュを始めたかのようでした。
アンコールで戻ってきた時は、そのアンプをセッティングし直しながら、
「楽しいねぇ……」
「30年やってて分かったことは、長生きしてるといろんなことがあるってことだよ」
「歌では「生きてる価値なし」とか歌ってるけど……長生きしようぜ」
と、嬉しそうな笑顔をたたえて、お客さんに語りかけていました。後半の冒頭でも「夢が叶った」と言っていましたが、それはお約束でもなんでもなく本心から出た言葉だったんでしょうし、僕にとっては「夢にも思わなかった」今まで聴いたことのないような素晴らしいセッションが体験でき、とにかく興奮しきりでした。
そしてアンコールでは、インキャパ二人とJOJO氏によるセッション。JOJO氏はもうステージ上でも笑みを隠すことなく、ひたすら楽しそうに二人と絡み合いながらギターを弾き、最後は小堺氏が機材をひっくり返し、本編ラスト同様フロアに飛び込んで終了。
30年続けてきたからこそ出来る音楽。30年続けてきたからこそ出来る企画。そして、30年を経て、新たに強力なメンバーを迎え、さらに進化を見せる非常階段のこれからは、またさらに面白いことになっていきそうな予感。
「あと30年ぐらい続けたいと思ってます」by JOJO広重
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