summer occasion at 元・立誠小学校 (Kyoto)

この日は元・立誠小学校で行われたP-hourのイベント“summer occasion”に行ってきました。

場所は校内で最も広い講堂。クーラーなどはなく、周辺に扇風機を配置していましたが、この日の日中の気温は38度と猛烈な暑さだったので、さすがに心もとない。とは言え、日も陰り始め、しばらくじっと座っていると汗も引き、暑さも落ち着いてきました。

講堂内は、中央にバンドのセットが組まれていました。その最も中央に、四方に向けられたスピーカーが組まれ、その上からセットを見下ろすように照明が掲げられています。その周囲を演奏者が囲み、その演奏者をお客さんが囲み、その四方に、内側に向けられたスピーカーが配置されているという構造。とにかく絵になるセットで、どの角度から見てもカッコいい。

音響的にもしっかりバランスが取れていて、スピーカーのそばでも、舞台の上でも、講堂の外から聴いても破綻したところが無く、多少の音質・音量の変化はあれどクリアさとダイナミズムが維持できていました。

開演時間になり、最初のアクト・Metomeの登場。まだ夕暮れ前の明かりが入る窓を閉め、黒いカーテンで部屋を真っ暗にし、天井に演奏とシンクロした映像が投影されます。映像は、プロジェクター二台を会場の中央両端に配置し、天井に向けて同じ映像を投影することで頭を付き合わせた映像が中心から縦に伸長して映り、今まで見たことがあまりないような面白い効果になっていました。

エレクトロニカなダンス・ビートに合わせて天井を走査線や曲線のパターンが行き交うパフォーマンスは、インスタレーション的なアート空間のようでとてもクールでした。演奏も、打ち込みに留まらずフレーズを手弾きするなど肉体性も伴っていて、なかなかの好印象でした。深夜のクラブで、やや酩酊した状態で聴くとさらに気持ちよく嵌りそうな音ですね。

Metomeの演奏が終わると一斉に窓が開けられ、若干涼しい空気が講堂内に流れてきます。会場アナウンスでも体調管理に注意する旨がありましたが、P-hourで暑い室内、空調は扇風機のみ……となると、西部講堂でのイベントを思い出してしまいますね。

続いての嶺川貴子とダスティン・ウォングは、いわゆるライブでサンプリングしながら曲を組み立てていくタイプの演奏で、浮遊感のある歌声含め、あんまり新鮮味がありませんでした。可愛い感じの転がるようなメロディセンスは悪くなかったですが。

そしてラストはOorutaichi Loves The Acustico Paz Nova Band。少し前から大規模なバンドを率いてライブをしていることは噂に聞いていましたが、観るのは初めて。

メンバーは円形になり、中心のスピーカー/照明に向かって演奏をする形を取っていて、プレーヤーを正面から見ようとすると遠のき、近過ぎると背中を見ることになるので、どこから観るかは結構悩みました。途中休憩を挟んだのでその間に移動し、前半は横から、後半は舞台上から全体を若干見下ろす位置で鑑賞。臨場感なら横から、全体を俯瞰して観るなら舞台上、という感じで、どこから観てもその場所の楽しさがありました。場所ごとに器楽のバランスが違って聴こえ方が大きく変わるということは前述の通り無かったので、音を気にせず好き勝手にうろうろできたのは良かったですね。

YTAMOとの静かなアコースティックデュオやソロでの爆音演奏とも違う、アコースティック楽器による壮大なアンサンブルは、しかしタイチ氏の音楽に一貫して通底する“架空のエキゾティシズム”と“空想のトロピカルテイスト”が強く表出したアンサンブルとなっていました。

それにしても、楽曲も演奏もものすごい完成度の高さ。メンバーは強者揃いであることに加え、コンポージングがアンサンブルに綺麗に合致していて、全員が同じ方向を向いていてぴったり息が合っている、という印象。

そしてその完成度が、複雑に作り込まれていながらも決して難解なものに陥らないバランス感覚がまたすごい。歌詞といい楽曲といいステージセットといい、相当変わったことをやってるように思うんですが、それらが一体となると、アバンギャルドさを明快さが追い越し、大舞台の似合うストレートでダイナミックなビッグスケールのポピュラーミュージックに聴こえてしまうから不思議。いわゆる“変化球に凝っていくと球威が落ちる”というようなことが全く無い。まるでストレートパンチのような変化球。

天井の映像は川瀬知代によるライブペインティングを映していましたが、こちらは、単に絵が完成していく様を切り取ったものでは無く、抽象的な描写とともに、カメラに写り込む手や筆、そのストロークの蠢く様を作品にしたようなアプローチで、自己主張がうるさく前に出ない、それでいて予測不能の展開で観るものを引きつけるクリエイティブな刺激に溢れていました。

最後の曲はウリチパン郡の懐かしのナンバー“記憶のパノラマ”でしたが、今改めてこの編成で聴くと、この時期の楽曲がいかに完成されていたか、同バンドが彼の“ポップミュージック”の核心であったかということが思い知らされるような素晴らしい演奏でした。この日のライブには、ウリチパンのライブで「足りなかったもの」が全て揃っているように見えて、ウリチパン活動休止の時に感じた「やり残した感」から解放されるような思いも伴い、とても満たされた気持ちになりました。一足飛びに今のバンドにはたどり着けないわけで、ここに至るまでの様々なプロセスが積み重なり、一つの表現として結実したのだと思うと、なかなか胸に迫るものがあります。

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