YCAM 10th Anniversary at YCAM (Yagmaguchi)

盆休み中、嫁の実家・山口県まで行っていたので、義父にお願いして、うちの家族・義父・義兄夫婦でYCAMへ遊びに行ってきました。

YCAMに来たのは2008年に「大友良英/ENSEMBLES展」に来て以来二回目。

10周年で様々な催しがあるものの、ネットでは実体がよく分からず、家族への説明もままならぬまま会場へ。館内カフェで昼食を摂った後、それぞれ自由行動となり、僕は早速レンタサイクルを利用してYCAMDOMMUNEのある駅近くの商店街へ。家族のペース第一なので、自由時間は2時間。

シャッターが降りている店も散見する、人通りも少ない、いわゆる田舎のアーケード街そのものでしたが、その中に見慣れたDOMMUNEの大きなシンボルが掲げられたビルが。ガラス張りの1階フロアから、DJブースの前に佇むジョン・ケージ(恐らく)の人形が見えます。

ycam-2

1階はバーにもなっていて、DOMMUNEの映像を観ながらお酒が飲めるようでしたが、昼間は休業中でした。

2階に進むと、壁にも床にも動画のキャプチャ画像がびっしり整然とプリントされていて、宇川直宏らしい狂気を感じさせられます。奥の壁の一面はDOMMUNE出演者のサインで埋め尽くされていましたが、これはDOMMUNEスタジオの壁をスキャンしたんでしょうか。

ycam-3

3階はイベントスペースになっていて、イベントをやっていない間はDOMMUNEのアーカイブを放送しているようで、僕が行った時には昨年3月19日の映像が流れていました。放射線調査やデモのことなど、原発問題に関わる話が1年後の今だからこそ新鮮な部分や感じることもあり、思わず見入ってしまいました。

ほぼ貸し切りの会場の中、後ろ髪引かれながらも途中退席。10周年の催しは主に商店街付近で行われていたので、商店街内を少し練り歩き。動物やスポーツ選手、山口のゆるキャラと競争でき、自分が走ったデータもアーカイブできるという参加型インスタレーション「スポーツタイムマシン」もありましたが、こちらは素人ランナーとしてマラソンチームも持っている義兄夫婦に任せ、別の展示へ。

商店街の外を回っていると、大型駐車場の前にYCAMのサインが見えたので中に入ってみると、屋上へ向かうよう指示がされていて、エレベーターに乗り灼熱の屋上に到着。

何か音が聞こえてくるので奥まで進んでいくと、複数の貨物用コンテナが閉じられた状態で置かれていて、中から音が。おそらく中に音響機材が仕込まれていて、それぞれのコンテナから別々の音を鳴らしていたようです。場所によって音の混ざり方も変わりなかなか面白かったんですが、暑さに負けて数分で退場。タレク・アトウィというレバノンのアーティストの作品でした。

ycam-4

この時点で既に1時間10分ぐらい過ぎていたので、館内の展示を見るためにYCAMに引き返します。

入り口近くにあるとくいの銀行のATMを通り過ぎ、奥へ進むと、「リサーチプロジェクト」という、前世紀からの情報技術やコミュニケーション、アートについての歴史を、壁のピクトグラムと、壁から吊るされたiPadを通して見るとそれぞれの出来事についての解説が表示される展示が。

更に奥、1階で最も広い空間では、天井から複数の多面体スピーカーが吊るされ、壁には波形などが映されたモニターが複数横並びに配置。坂本龍一による「Forest Symphony」というこの作品は、日本各地の樹木から得た生体電位の情報を音楽に変換してスピーカーから流し、モニターにはおそらくその樹木のデータが表示されているというもの。音声はどれも電子音でしたが、部屋の中央にいると、まるで森林浴でもしているような不思議な心地良さがあり、これまたお尻に根が生えそうな気持ちに。

ycam-5

正面階段から2階へ進んでいくと、平川紀道の作品のコーナー。複数の縦位置小型モニターが横にいくつも並べられ、プログラミングで描写されたような抽象的なパターンが映されていて、一番左奥のモニターだけ、複数のポートレイトを高速で入れ替えたような不可思議な映像が流れていました。

右奥の部屋に行くと、アンティークなコンピューターとそれに関わるドキュメンタリーが流れていました。ダフィット・リンクというドイツのアーティストによる作品とのことで、こちらもじっくり観たいところでしたが涙を飲んで退室。

反対側から別の部屋に進むと、真っ暗な部屋の床の一部にモニタが埋め込まれていて、ビル街や草原などが、様々な風景の映像が奇妙なパース感を伴って流れていました。こちらは韓国のムン・キョン・ウォンによる作品。

館外の公園にある施設「コロガルパビリオン」も見てみたかったんですが、外に出たと同時に、図書館で嫁に本を読んでもらっていた娘と遭遇して時間切れ。義父、義兄夫婦と合流して会場を後にしました。

ycam-6

短い時間に駆け足で回り、消化不良の感は否めませんでしたが、こんな機会でもなければなかなか足を運ばない場所でもあったので、観られて良かったです。

この日特に感じたのは、こういった普段の町並みの中にアート作品を埋め込むような展示は、日常の風景とアートがシームレスになっていく、ということ。商店街の中にある普通の眼鏡屋で眼鏡に貼っている手書きの大きな値札がクールに見えたり、道すがらのデイサービスの施設から見えるご老人方の体操している姿が美しいダンスに見えたりと、日常の中にある様々な事象が輝いて見えてきて、作品の良し悪しとは別に、何か感性のどこかのスイッチを押されるような、感度を上げられたような、そのための引き金として機能しているのではないかと思えました。

義父が途中地元の床屋へ寄って、正に床屋談義をしていたようなんですが、そこから漏れ聞こえた話によると、YCAMに対しては未だに地元から反発が多いそうで、その主な理由は「赤字」とのこと。それもそのはず、驚くほど立派なこの施設に、お金を集める機能は殆どありません。今回の商店街とのコラボレーションも、人を引き込む力がどの程度あるかというと疑問です。

全国の県庁所在地の中で最も地価が安いとも言われている山口県だからこそ成立している規模なんだと思いますが、それでも人が来なければどうにもならないでしょう。義父と嫁の話によると、山口県民が遊びに行く場所は、県内ではなく福岡や広島になるらしいですし。

国内でもこの場所でしか行われない企画も少なくありませんが、今後、文化に投資できる大きなパトロンでも出て来ないと、現状のままあと何年持ちこたえられるのか、かなり危ういのかも知れません。

お金は大事だけど、文化を発信する機能は維持したい。旧ジョネス邸の保存、文楽への補助金、はたまた武雄市図書館か。難しい問題ではありますが、お金にならないもの、役に立たないものの尊さ、愛おしさを大事にする気持ちを大事にしてほしいと思います。文化を通して感性を育むことは、お金だけでは生み出せないだけに、人として生きていく上でとても重要なことだと思います。

以前来た時には駅から会場まで一直線に歩いただけなので気づかなかったんですが、山口駅周辺には山口県立美術館もあり、YCAM横の山口市中央公園含めてのどかな中に施設やのんびり散歩するに適した街路樹も充実しており、とても居心地の良さそうな町だったので、帰省のタイミングと言わず、また遊びに行くつもりです。

YCAM 10thロゴ手ぬぐい(カラー:ブルー、グリーン、ピンク)
YCAM 10thロゴ手ぬぐい(カラー:ブルー、グリーン、ピンク)
山口情報芸術センター[YCAM](制作)
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る by G-Tools

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください