「第二回“いい試聴機”で聴こう!ほ〜ぷ軒わくわく試聴会 特集・三田村管打団?」、無事終了しました。
2年前にピュアオーディオを使った試聴会を始めた頃から、いつもオーソドックスでありがちなものではない「オルタナティブな試聴会」を目指して企画していましたが、この日ほどその名にふさわしい試聴会もないのではないかと思います。何せ会場中におでんの匂いが漂ってるし、女性も結構多いし、子供がノリノリで踊ってるし……。
そんな、単なる「アルバム試聴会」でも「オーディオ試聴会」でもあり得ないような、結果的には実に「管打団らしい」イベントになりました。
当日、開演前のBGMに、僕が編集した「管打団レパートリーの原曲集」をかけていました。以下に曲名とオリジナルを記載しておきます。
1. Creole Love Call – Roland Kirk(クレオール・ラブコール – 「!!!」収録。オリジナルはデューク・エリントンですが、管打団が元にしたのはカークのバージョン)
2. Yama Yama – Daniel Vangarde(ヤマヤマ – 「!!」収録)
3. Get Me To The Church Of Time – Frank Sinatra((おめでとう – 「!」収録。僕がかけたのは、三浦社長が試聴会で愛用している「Sinatra At The Sands」収録バージョンですが、オリジナルは映画「マイ・フェア・レディ」挿入歌)
4. Baião De Lacan – Guinga(バイァオン・ジ・ラカン – 「!!!」収録)
5. Molih Ta, Majcho I Molih – ブルガリア民謡(お母さんお願い – 「!!」収録)
6. Alvorada – Carlos Cachaça(アルボラーダ – 「!!」収録)
7. Frevo dos vassourinhas – Orquestra Tabajara(ヴァソリーニャ – 「!!!」収録)
8. Asa Branca – Luiz Gonzaga(アザ・ブランカ – 「!」収録)
9. A Child Is Born – Thad Jones And Mel Lewis(子供が生まれた – 「!!!」収録)
10. Lugar Comum – João Donato(ルガール・コムン – 「!」収録。僕がかけたのはジョアン・ドナートのバージョンでしたが、管打団の元になったのはジルベルト・ジルのバージョン)
11. Pata Pata – Miriam Makeba(パタパタ – 「!!!」収録)
12. Qui Nem Giló – Luiz Gonzaga(キネンジロー – 「!」「!!」収録)
最後まではかけなかったかな。まあいいや。興味のある方、是非聴いてみてください。原典にあたることで、色んな再発見がありますよ。
僕が原曲を拾いきれなかったレパートリーも他に結構あるんですが、そのうち「テーハ」については、元の曲は「鍾乳洞の切れ端を並べたものを叩いて音を鳴らし、同じテーマを延々リフレインしている演奏で、三田村ではそれを編曲して演奏している」とのアリさんの解説。
そして、この日の本編のセットリストは以下。
1. アザ・ブランカ(「!」より)
2. バイエルン(「!!」より)
3. とらとらいおん(ゑでぃまぁこん「やっほのぽとり」より)
4. ハイライフ・ヒム
5. スチール・ビート
6. 雪だるまのチャチャチャ
7. 子供が生まれた
8. 豊島のうた
9. 運河
10. ヴァソリーニャ
11. ピグミーのうた
12. ルダビールダビー
13. ピンチでパンチ(以上「!!!」より)
14. Enter The Dragon(Lee Perry「Kung Fu Meets The Dragon (feat. Augustus Pablo)」より)
15. キネンジロー(「!!」より)
最新作「!!!」の曲を中心にかけましたが、全部聴いていただく時間がなかったのでかいつまんで。ちなみに同アルバムには他に「パタパタ」、「クレオール・ラブコール」、「ココ」、「ハイライフ・ヒム(別バージョン)」、「バイァオン・ジ・ラカン」、「テーハ」を収録。
ちなみに先ほども話題に上がった「テーハ」ですが、このアルバムのテイクはアリさん、文章さん、小田さんの間で議論があったそうです。冒頭の音が他の曲と比べて小さすぎる、ということらしく、最終的に冒頭部分の音のレベルを少し上げたんだそうです。その正否については、アルバムを買って聴いていただいて、皆さんの耳でご判断ください。
まず「アザ・ブランカ」をかける前に管打団結成に至るいきさつ、文章さんとの出会い(そしてBRIDGEのこと)などをお訊きしました。そしてもちろん、管打団結成にあたって避けて通ることのできない最重要人物・大原裕氏についても。
始めに「アザ・ブランカ」をかけたのは、この曲を文章さんが録っていて、なおかつLive! Laugh!でも演奏していたことがあった曲、ということで選んだんですが、アリさんにその説明すると「(Live! Laugh!でも演奏していたということについて)そうやったっけ」という反応だったので「アリさんがZARADAのインタビューでそう言ってましたよ」と応えたら苦笑いされてました。
そして小田さんとの出会い、コンペア・ノーツからリリースすることになったいきさつを小田さんにお訊きして、次に「バイエルン」をかけたんですが、他の曲はすべてステレオマイクで録っている中でこの曲だけマルチマイクで録音していて(当時着うたで配信する、という話があったそうで、元々はそのために録ったんだとか)、文章さんとしてはその他のテイクでの管の音(「!」の頃との音の違い)が聴きたかったようで、最後にかける「キネンジロー」をさわりだけ聴きました。
その後「とらとらいおん」をかけたのは、文章さんが次のお仕事の都合で15時過ぎには出なければいけなかったので、本来最後の方に回すつもりだったものを、1stから2ndへの録音の変化という流れの中で聴いてもらうことにしたため。本番前にこのアルバムをメイン試聴機で聴いた杉本くんの「これ聴いたら……売れますね」というセリフが忘れられません。それぐらい素晴らしい曲/演奏/録音なんですが、この日は売れましたかね。
文章さんの退出後、いよいよ「!!!」を本邦初公開。アルバムは2枚組で、1枚は比較的最近の演奏曲やレパートリーを収録した41分。もう1枚は、わりと古くから演奏され続けて来たものの、アルバムに入れた時にその曲だけ突出してしまい、バランスが悪くなってしまうという理由から収録を見送っていた「ファンにはおなじみの曲」をまとめた26分。一枚に入りきる収録時間ながらも、必然性のある分離の仕方をしているのです。セットリストでは、ついにアルバムに入った「ヴァソリーニャ」からが短い方の盤。「Disc1」「Disc2」という前後関係のある分け方ではなく、「金盤」「銀盤」という分け方をする予定だそうです。
Live! Laugh!時代のレパートリーでもある「ハイライフ・ヒム」、そして今や両想い管打団!にまで発展し、引き継がれることになった「スチール・ビート」という流れ出、話は必然的に大原氏の功績について。この辺りは、特に東京での再評価の動きが著しいことから、小田さんに色々お話ししていただきました。
「雪だるまのチャチャチャ」〜「豊島のうた」は続けて聴いてもらいましたが、この流れはアルバムでも長い方の盤のほぼ真ん中に収録されている、言わば本作のハイライトと言っても良く、特に「子供が生まれた」ラストの奇跡は、正に管打団だからこそ生み出せた奇跡。試聴会に来られなかった方は、発売まで楽しみにしておいてください。
「運河」は、アリさんが本番中「これ、勘太くんが参加してたかも……」と言ってましたが、後で調べてみたら、この曲の演奏日のセットリストを偶然僕が勘太くんの参加状況まで書いていて、「参加してなかった」ことが判明しました。自分でも何故この日に限ってここまで細かく書いていたのか謎なんですが。
短い方の盤に移ると、ノリの良い曲が集まっていることもあって、アリさんご子息の恩ちゃんとうちの娘(楽ちゃん・3歳5ヶ月)が客席真ん前のど真ん中で揃って踊りまくっていました。特に「ルダビールダビー」でのはしゃぎっぷりがすごかったんですが、ここでは爆音炸裂する吉野さんのトロンボーンも聴きもの。この日会場でコーヒーを(豆を挽くところから)作ってくださっていて、終演後は手作りケーキまで振る舞ってくれたチューバの塩田遥さんによると、チューバ吹きからするとトロンボーンは吹き込む息の量が遥かに少ないので、普段一流のチューバ奏者として活躍されている吉野さんからすると軽く吹いただけで相当デカい音が出せてしまうらしく、吉野さんは録音されたこのテイクを聴きながら、あまりの音のデカさに思わず笑ってしまっていたそうです。
「!!!」を聴き終わった後に、アリさんに持って来ていただいた音源をかけさせてもらいましたが、アリさんのチョイスはなんとリー・ペリー。ザラザラなロー・ファイサウンドの狂ったダブミックスを300万クラスのオーディオシステムで鳴らすエグさ。最高の選曲でした。
締めは、やはり管打団と言えばこの曲、ということで「キネンジロー」。やっぱりこの曲が最後に来ると、何となく場が収まる感じがありますね。
曲数にして15曲もかけた上に、ゲストの皆さんにも沢山喋っていただいたので、かなり駆け足で進めたつもりでも最終的には2時間を遥かに超えていました。その後、お客さん、スタッフ交えて色んな音源をかけて1時間ほど楽しんでいただきましたが、アフリカのフィールドレコーディングや現代音楽がひっきりなしにかかっていて、まるで前回の本編中の様相となっておりました。
アルバムのリリースが間に合わなかったということで、アリさんにお願いして作らせてもらった予約特典のCDも、色んな方の手に渡り、とても嬉しかったです。新しいアルバムがお手元に届くまで、じっくりと楽しんでいただきたいと思います。
で、このアルバムには、曲目を記していません。聴く方の楽しみをなるべく奪わないようにしたいと思ったからなんですが、一応ヒントとして以下に元音源のトラックリストを書いておきます。この中から、曲順も演奏日も混ぜこぜにして一枚にしています。入手された方は答え合わせしてみてください。
【2007年4月18日】
ヴァソリーニャ
パタパタ
茶菓
ヤマヤマ
小さな願い
管打団、西へ
お母さんお願い
コッペパン
アルボラーダ
ルガール・コムン
キネンジロー
旅行
山科音頭
【2009年11月15日】
バイァオン・ジ・ラカン
アルボラーダ
コッペパン
おめでとう
アメフリ
ピンチでパンチ
スチール・ビート
子供が生まれた
ココ
ルガール・コムン
旅行
キネンジロー
ちなみに2007年4月18日の演奏は、「コッペパン」、「ヤマヤマ」、「アルボラーダ」、「お母さんお願い」、「旅行」が「!!」に入っています。
アリさん、文章さん、小田さんの話はどれもすごく興味深く、かなり貴重な情報がてんこ盛り(管打団に関するインタビューなどの資料は前出のZARADA以外皆無に等しく、ミュージシャン、録音エンジニア、レーベルオーナーが三つ巴で話してくれる機会となれば、管打団以外でもなかなか無いです)だったんですが、ちょっと文字に焼き付けてしまうには過激なネタも多くて、なんだかこれを詳細に文字起こしして多くの人に読んでもらう、というのは試聴会の本来の意義とは違うとも思いますので、当日の開演中の話については、当レポートではなるべく本編の具体的な内容に触れず、お客さんも耳にしていない、開演前/終演後に訊いた話を中心にまとめてみました。
管打団をきっかけに、初めてピュアオーディオに触れてもらえた人も沢山いらっしゃって、アンケートにも「今まで管打団のアルバムはあまりいい音だと思ってなかったけど、今日はとても良い音で聴けた」というようなことを書いてくださった方もいました。嬉しい感想です。
じゃあ管打団のアルバムをいい音で聴こうと思ったらン百万のオーディオシステムが必要なのかと言えば、それは違います。「本当はこんな音が入っていたんだ」ということを脳が覚えていれば、そこそこのオーディオシステムでも(極端に言うと一万円弱のイヤホンでも)今までよりも遥かに良い音が聴こえてきます。視力トレーニングのようなもので、本来の音を聴くことで、耳のピント調整のようなことが行われるからです。そうなってくると、今まで聴いてきた音源も聴こえ方がどんどん変わってきます。僕が「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」の時から続けていることは、そんな「耳の矯正」のようなことで、視力と違い聴力ははっきりとビジュアルとして見えないだけに、実は矯正の余地が沢山あって、「いい音」を沢山聴くと、「いい音が分かる耳」になってくるんです。よく普段聴いていた音源を高級オーディオで聴いた時に「今まで聴こえなかった音が聴こえた」ということがありますが、その現象の多くは、先の例で言うと、「耳のピント」が合ってなかっただけで、本当は今まで聴いてきた環境でも鳴っていたけれど聴けていなかった場合が多いです。改めて普段の環境で聴き直せば、多分聴こえてきます。
文章さんのように、精魂込めて録音エンジニアさんが作り上げた音を、彼らの音楽を愛する人たちにもっと聴いてほしい、どんな音が、どんな思いが刻印されているのか、もっと知ってほしい(そして自分も知りたい)んです。それができる手段としてのピュアオーディオ、その場としての試聴会を、関西の地に根付かせたいんです。
もっともっとたくさんの人に聴いてほしい音がいっぱいあります。ですので、ほ〜ぷ軒わくわく試聴会は、今後も続きます。そして、来年2月には本家「視聴会」も久々にやります。
というわけで、アリさん、文章さん、そして小田さん、ニャンとさん、塩田さん、そしてそして、足下の悪い中このイベントにわざわざ足を運んでくださった全てのお客さんに、心からの感謝を。本当にありがとうございました。
いい音を楽しむオーディオBOOK (SEIBIDO MOOK) | |
上田 高志
成美堂出版 2011-12-02 |
【三田村管打団?年表】
1996年 映画「アンダーグラウンド」公開
同年 LIVE! LAUGH!結成
1999年 LIVE! LAUGH!「風ヲキッテ進メ!」リリース
2001年 LIVE! LAUGH!解散
2002年 三田村管打団?結成
同年 新世界BRIDGEオープン
2003年 リーダーがみやけをしんいちから森本アリへ交代
同年 大原裕死去
2005年 ライブCD-R3タイトルリリース
同年 神戸ビッグアップルとBRIDGEで1stアルバムの録音
2006年 「!」リリース
2007年 BRIDGE閉鎖
2009年 「!!」リリース
同年 ベビーブーム到来
2012年 両想い管打団!誕生
2013年 「!!!」リリース(?)