この日はshin-biに、大友良英の展示「hyper wr player – without records hi-fi version-」と大友良英trioのライブを観に行きました。
まずは、ギャラリースペースて展示されていた「hyper wr player」を鑑賞。
会場の中央に縦長の四角い台が置かれ、上には四本のアームとそれに囲まれたターンテーブル。その四方にスピーカーが付けられており、それぞれのアームが拾った音を再生します。四本のアームがそれぞれ生き物のように上下左右に動きながら、回転/停止を不規則に繰り返す(レコードの乗っていない)ターンテーブル上を引っかいてはそれぞれのスピーカーからノイズを発する様子は、いつまで観ていても飽きることがない、奇妙な魅力を発していました。動物園で気に入った動物を鑑賞する行為に少し似ているかも知れません。会期中、一度も同じ瞬間が無いそうですが、そんなところも動物を観る感覚に近いのかも。
一昨年に山口に観に行った時には、何故かhyper wr playerが動いていなかったので、この日ようやく観ることができて、本当に嬉しかったです。
開場時間が近づいてきたところでギャラリーを出て、店舗内で「ENSEMBLES」と「with records」を購入。
外に出て入場列に並び、ライブ会場へ。
会場内に入ると、フラットなスペースの中央にギター、ウッドベース、ドラムセットが配置された、昨年観たONJOと同じ「PA無しの剥き出しの奏者を客が取り囲む」というパターン。
メンバーが増えることによって音響/インスタレーションへと進化を果たしたONJOから、リズム隊のみを抽出したこの編成では、再び個々の演奏にグッとフォーカスしたフリー・インプロヴィゼーションへ。
三人のメンバーが至近距離で丁々発止の掛け合いを繰り広げる様はそれだけでスリリングですが、音韻にとらわれない多彩な発音に長けたこのトリオの表現力の豊かさは大変刺激的でした。
ドラムスの芳垣安洋は地べたに並べたシンバルを踏み鳴らしたり、シンバルをスネアやタムの上に乗せて叩いたり、ドラムセットも分解して並べ替えたり弓でシンバルを弾いたりと、ONJOでもお馴染みの自由ぶり。
ベースの水谷浩章も、アンプのON/OFFで電気的な音処理をしてみたり弦の間に鉄板を挟み込んでみたり。
そして大友氏の、弦にクリップを挟んだりU字の金具をこすりつけたりというプレイも含め、即興の中で生み出される曲の中でしっかりと必然性を持って響いていたのが印象的で、ドローンっぽいパートからメロウに展開したり、そこからハードな演奏に入りヒートアップしていく、というような、ストーリーすら感じさせる構成の中で、即興で鳴らされている偶発的な音それぞれが、まるで譜面に記されているかのように確信的に響いていて、即興で構築されながらも表情のはっきりとした音の強さに終始圧倒されっ放し。
約30〜40分ほどのセットを二本演奏しましたが、一本目はラストで三人が一気呵成の高速プレイに突入し、大友氏はギターを引き裂くように激しくかき鳴らすと、弦が一本切断。ギターにぶら下がった部分をニッパーで切り落とし、ペグに巻き付いた分を手で引っこ抜くと、予備の弦の袋を口で裂いて中から出そうとするも、演奏に乗っかる方を選んで弦を放り投げ、5弦のまま轟音でフィニッシュ。
MCでは珍しくよく喋る大友氏。バンド名の由来(それらしい名前をつけようと考えてみたものの、何をつけてもあざとくなりそうだったので「trio」とした)の話から、チャンバラトリオがトリオなのに4人だという話(大友「一番多い時は5人ぐらいいたよね」芳垣「4人だよ。ていうか、ずっと4人」)、そして何故か「イチローは毎朝カレーを食ってる」という話になり、ややグダグダになりながら二本目へ(芳垣氏が喋るのって初めて聞きました)。
こちらは、ドローンなムードから一本目にも増して激しい芳垣氏のドラムスに三人のテンションも急激に高まり、熱量がピークになったところからアブストラクトな展開へ。ギターのフィードバックや、解体されて組み替えられたシンバルの音に包まれながら、浮遊感を漂わせながら終了。
そしてアンコールではアイラーの「Ghosts」を短めに演奏して、この日のプログラムは全て終了。
技法のひとつひとつはONJOの時とほとんど同じなんですが、コンセプトもプレイヤー同士の関係性も大きく違うトリオ編成では、一音の持つ影響力はもちろんのこと、音の意味も展開も全く違う動きを見せ、インスタレーション的な面白さとはまた違う、アーティストのパーソナリティの強烈さ、ゴツさに浸ることのできる、素晴らしい演奏でした。
終演後に、物販購入者にサインするためにテーブル前に座る大友氏に、shin-biで購入した「ENSEMBLES」を差し出しながら、一昨年のYCAMに行った時にhyper wr playerが動いておらず、いつ動き出すものかと思いながら数時間様子を眺めていた旨を伝えると、「YCAMのは調子が悪かった、というか……未完成だったんだよね」との御返事。
というわけで、YCAMでご覧になったという皆さんも、完成版hyper wr playerを観るために、是非shin-biへ。
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