「スパイダーバース」と「プロメア」を連続で観て感じた日米アニメ映画のベクトルの違い

夏休みになんばパークスシネマアニメーション爆音映画祭をやっていたので、「スパイダーマン:スパイダーバース」「プロメア」を観てきました。どちらもアマゾンプライムでは観ていましたが劇場では観ておらず、特に「スパイダーバース」は「これは劇場で観るべきだったなあ」と思い、その理由のひとつは「音量」だったので、ちょうど日米の最近の作品が続けて観られると思い、初めて爆音映画祭に足を運びました。

爆音映画祭は、音響にライブハウスのPAを使っている、というのが売りですが、ライブハウスに行かなくなってもう5、6年は過ぎ、通っていた時期もたまに耳栓をしていたぐらいだったので、どの程度の爆音なのか、若干不安に感じながらの鑑賞でしたが、後に耳鳴りが残るほどの爆音ではなく、それでも明らかにバカでかい音で、特にウーファーが出す低音がガツンと腹の中まで響いてくる感じは、なかなか爽快でした(それより空調が寒くて、1本目の後に受付のスタッフにブランケットを借りようと思ったら、コロナの影響で貸し出ししていないと言われました。寒い場合は各スクリーンの近くにいるスタッフにお声がけください、と言われたので先に進んでスクリーンの周辺を見回しましたが、どこにもスタッフらしき人影は見当たらず、結局2本目も寒さにこらえながら鑑賞しました)。

12時頃から「スパイダーバース」、14時半頃から「プロメア」というプログラムでした。というわけでまず「スパイダーバース」。スマホのアマゾンプライムビデオで観ていたので、ブロックノイズの出ない鮮明で情報の濃い画面が視界を覆うように広がるため、とにかく目が気持ちいい&忙しい。スマホで観た時には、前半のピーター・パーカー死去までの話が長いのに、スパイダーノワールやスパイダーハムといった別次元のキャラの活躍シーンが少なかったのが不満で、しかもマイルスがスパイダースーツに身を包むのは最後の最後だけだったことにも物足りなさを感じていましたが、劇場で観ると、意外に気にならず、むしろ程よい構成のような気がしました。マイルスの葛藤と、彼を見守る大人たちの葛藤との綱引きも見事で、娘を持つ父親として、改めてマイルスの父に感情移入させられました(前半での彼の気持ちも、後半での彼の気持ちも、手に取るようにわかるんだよなあ……)。

漫画的な効果や演出も絶妙で楽しく、特に被写界深度が浅くボケ足の付く場所が版ズレのような演出でブラー演出をしているのは面白かったですね。

後攻の「プロメア」は、アマゾンプライムビデオでは観られなかった前日譚からスタートしていましたが、これが蛇足でした。本編から4割ぐらい出力を落として、特に驚きも感動もない、「まあそうでしょうね」と本編を観ていれば十分予測のつくような話を観ているうちに、空調の強さと相まって、身も心も冷えてしまいました。本編に入ればちゃんと面白いのですが、話に合わせてこちらの気持ちが盛り上がって行くまでに少し時間がかかってしまったのがもったいなく感じました。この特典映像は、別に劇場で観なくても、DVDなどのソフトを買う人が家で観れば十分な内容ではないでしょうか。

とは言え本編はやはり面白く、ポリゴンの矩形を意図的に残した水や氷、光の演出は新鮮でしたし(レンズフレアを正方形で表現するのは素晴らしいアイデアだと思いました)、登場人物やメカのケレン味が効いた激しくパースを効かせた動きは、それだけで胸躍るものがあります。

レビューなどを見ていると、ストーリーに対してのツッコミが散見されましたが、この映画はストーリーだけでなく、様々な原理・法則が良い意味で破綻しているので、それを認めた上で見る映画だと思います。ロボットがありえないような変形をするのは、その方がかっこいいからだし、主人公が炎にまみれてもやけど一つしないのは「燃える男」だからだし、まあとにかく勢いと見栄えだけで最後まで突っ切る映画だから、細かいツッコミをするのは筋違いだということです。じゃあなぜ筋違いのツッコミが出るのかというと、恐らくアニメ映画として真剣に観てしまうからで、これを舞台演劇だと思って観れば、そんなことが何も問題にならないことがわかるはずです。中島かずきの脚本で、有名俳優・舞台俳優が看板役者として登場し、ケレン味のある立ち居振る舞いと決めポーズ、と来れば、それは劇団☆新感線をアニメに変換してスクリーンにかけているわけですから、1秒1秒が目に耳に楽しく、後半にはよくわからないがなんだかすごいことになっていき、全員叫びながら舞台から強烈な閃光が放たれていれば、それだけで大団円を迎える。ストーリーの筋立ての良し悪しではなく、そのカタルシスこそが本質なのです。

というわけで、「プロメア」はアニメの姿を借りた舞台演劇だったわけですが、一方で「スパイダーバース」はアニメの姿を借りたハリウッド実写映画でもありました。「プロメア」は、舞台演劇でありながらも、いわゆる日本アニメの記号の集積でもあり、キャラ設定から構成・演出まで、疑いようのない日本アニメの姿をしていますが、「スパイダーバース」には「アメコミ」のスパイスは盛り込まれているものの、いわゆる「アニメ」の話法というより、実写映画の構造をアニメっぽく演出している、というスタンスに見えます。それは現代のアメリカのアニメ映画がほぼ3DCGで作られているため、「スパイダーバース」でも人物以外は実写に近いクオリティに仕上がっています。しかし「プロメア」だと車や建物などはいかにもCG然とした表現で、リアリティはありません。予算の違いもあるのでしょうが、本質的には、高精度のCGから意図的に精度を下げるために手描き技法を使う「スパイダーバース」と、手描きありきで造形した上に、制度云々とは違う形でのCGの面白い使い方を編み出した「プロメア」という、ベクトルの違いなんだと思います。「スパイダーバース」を表する言葉として、「ぜんぜん違うタッチのキャラが同居していることろがすごい」というようなものがありますが、僕はどのキャラも(カートゥーンをベースにしたスパイダーハムも)所詮CGを基本にしているので、その落差がさほど表現できていないと思っています。

結果的にどちらが面白かったかと言うと、まあ「スパイダーバース」なんですが、それはそれでハリウッド流のロジックで言い負かされてしまっているだけのような気もして、それを言ったら「プロメア」だって日本アニメの常套句に色めき立っているだけかも知れないんですが、それでも「プロメア」方が、表現方法という点においては新しさを感じました。「足りない」「欠けてる」という、言わば「わび・さび」のような表現で言えば、やっぱりまだまだ日本はいけるってことなんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。

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