世界は「仮説」で回っている

「デザイン思考の仕事術」読了。なんかものすごい数の誤字脱字で、デザイン思考してるとタイプミスが増えるのかと思うぐらい目立って多かったです。でも後半、内容が盛り上がってくると筆が走ってるような熱い感じがして、誤字脱字も減ってくるのが興味深いです。最後にまた増えていくんですが。

結構前の本なんですが、特に最近「デザイン思考」という言葉を目にする機会が多かったので、一体何を「デザイン思考」と言ってるのかと思い、読んでみたんですが、結局「デザイン思考」という言い方がそもそも誤解を招きやすい表現じゃないのか、と思ったのが本書の読後感でした。

まあそんなことはどうでも良く、企画を形にしていくためのヒントとしてはとても勉強になりました。中でも印象的だったのが「アブダクション」という表現。取材やブレスト、KJ法など、アイデアの元になる素材を集めたり整理していく中で、それらを組み合わせて新しいアイデアに結びつけるには、その素材の外側から、結びつけるための「仮説(アブダクション)」が必要だ、という話。

本書を読み終わるタイミングで目にしたのが、「頭のいい子はみな「直感力」を鍛えている」という記事。この記事の趣旨は「子供の感性を高めるには」ということですが、僕が得心したのは、

「「A=B、B=Cであるならば、A=Cである」というようには、現実にはなりません。実際は「A=Cであるようだと直感で感じ(仮説)→ なぜだろうと疑問が出て→ それはA=Bであり、B=Cであろう」ということがわかり、それを逆に組み立てると、「A=B、B=Cであるならば、A=C」となるのです。

このときの直感で判断した仮説は感性が生み出したものであり、論理によって生み出されたものではありません。この感性抜きには、実は論理は成り立たないのです。」

というところ。ここがTumblrで流れてきて「これだ」と膝を叩きました。

本書の中では、ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見た時に、地球と月との関係性と結びつけて「引力」という仮説を立てたと書かれています(“アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ”というやつですね)が、正に物理学の世界は相対性理論にせよ量子論にせよインフレーション理論にせよ、脅威的な天才たちによる「仮説」と、それを延々と検証し続けることで進歩しているわけで、今年話題になった重力波にしても、アインシュタインが「仮説」したからこそ観測でき、それを重力波だと特定できたわけですよね。

今ウェブだと重要視されているのが、サイト解析でも広告運用でも「仮説を立てる」こと。どんな結果を見込んでいるのか決めないままには、広告を打っても評価のしようが無いし、サイトを改善するにもなにが改善なのか分かりません。同じことですよね。

僕が企画を練る際、対象の周辺情報などをなるべく集め、それらから何かを引っ張り出そうとするんですが、ほとんどの場合、アイデアは前述の「A=B、B=Cであるならば、A=Cである」というような、論理的な思考の積み重ねの先に出てくるわけではなく、間のプロセスをすっ飛ばして先に「A=C」が浮かんできてしまいます。この場合、「A=C」から逆引きするようにして「A=B、B=Cであるならば」のところを、「A=C」ありきで企画書にまとめていきます。言わば「後付け」「こじつけ」みたいな感じです。ただこの場合、無理矢理にこじつけていくわけではなく、もしつじつまが合わない場合は「A=C」という仮説が間違いだということになるので、「A=C」を捨ててもう一度アイデアを出す作業に戻ります。

この、ちょっと端折った感じ、若干飛躍しているやり方を「間違いなんじゃないか。もっとロジカルに詰めていかないと駄目なんじゃないか」と気になりながら何年も続けていたんですが、本書を読み、僕が「アイデア」というラベルでしか見ていなかったものを「仮説」と呼ぶことが出来るのなら、あながち間違いでもなかったのでは、と思うようになりました。勿論、まるっきり直感に頼って逆引きで穴埋めしてしまうと、自分の経験則やボキャブラリーだけに依存してしまうので勿論良いわけはない。やはりある程度本書にあるようなデータを整理していく段階は踏んでいかないといけないわけですが、その質と量は解決すべき課題によって変わってくるでしょうね。

この「仮説を立てる」ということ、言われてみるとさも当たり前のことのように自然に受け止めることができるんですが、僕が今までアイデア本を読んでいた中には、意外にこの「仮説を立てる」ことに焦点を当てて、自分のアイデア出しのプロセスと結びつけてくれる書き方をしている本がなかったので、正に目から鱗が落ちる思いでした。その点だけでも本書は、誤字脱字に負けずに(しつこい)最後まで読む価値がありました。

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