この日はシアター・ドラマシティに“ねずみの三銃士”第2回企画公演「印獣」を観に行きました。
前作「鈍獣」より5年。演劇ファンにとっても、前作をDVDで鑑賞し、ドキュメンタリーを含め完璧なまでに面白い舞台の追体験をして感動し、観に行かなかったことを激しく後悔した僕にとっても待望の第2回公演です。
今回も前作同様のホラーコメディ。「ストックホルム症候群」が一つの大きなキーワードとなっていますが、その言葉に象徴される極限の精神状態の中、生瀬勝久、池田成志、古田新太の三人演じる作家が、三田佳子演じる「大女優」の一代記を執筆させられる密室劇。
ケータイ小説家、エロ専門のルポライター、絵本作家という三人それぞれバラバラのジャンルながら、執筆を進める過程でその理由が解き明かされ、虚構と現実、嘘と真実が交錯しながら、「大女優」の哀しすぎる実態が徐々に露になっていきます。
三田佳子への荒唐無稽な演出(電飾バリバリのエマニエル婦人みたいな椅子で登場したり、歌い踊りながらラップやったり、キヨスクのおばさんになったり、ヒーローものの悪役の格好で客席から登場してテーマ曲を歌いながら踊ったり)に笑わされながらも、話が進むごとに様々な笑いの要素がだんだん「ここで笑うと不謹慎」の境目をついてくるようになり、しかもしつこく笑わせようとする、という悪意が増していき、その拮抗が客席に毒のある緊張感と混乱を生み出していました。
ラストは、謎に包まれた不条理の恐怖が、謎が解けていく中で哀しみとなり、やがて人間の狂気が暴走し、伝染し、身の凍るような不条理の恐怖に包まれながら幕が下ろされるという、壮絶なエンディングを迎えます。
「噂の男」に通じる後引く怖さ、「SAW」や「CUBE」に通じる密室劇の圧迫感、そして笑いと戦慄の「緊張と緩和」が、やがて「緊張」のみになっていく緊迫感。
映像を使ったり実物の車を出したり、時間軸を行き来するストーリーを様々な演出で巧みに繋ぎ合わせていましたが、勿論主役は舞台役者。時間経過による心理の変化を見事に表現していた三人、混乱しながら正気と狂気を行き来する迫真の芝居を見せた岡田義徳、笑わせ役として聞き取れないウチナーグチ全開で喋りまくっていた上地春奈、そしてこの物語を掌握し、ズレて狂った大女優を分裂症のようにさまざまなキャラクター(小学生、高校生、大衆演劇の役者、ラッパー、怪人等々)で演じ切った三田佳子の器の大きさに感動しました。
観終わった後、舞台が発するエネルギーと毒の濃さに疲れきって、「これはDVDが出ても買わないだろうな……」と思っていましたが、しばらく経って「また観たい」という気持ちがむくむくと起き上がってきています。
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