京都フィルハーモニー室内合奏団 第200回定期公演 「古都の室内オーケストラ、ここにあり」 at 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ (Kyoto)

この日は京都コンサートホール アンサンブルホールムラタで行われた京都フィルハーモニー室内合奏団の第200回記念定期公演に行ってきました。

第200回記念定期公演プログラム

客層は、現代音楽がメインということもあってか若い人たちも多く、入場時のロビーを見回しても年配の方が目立たないほど。坊主頭の男性が多くいたように見受けられましたが、何かの団体でしょうか。

この日のプログラムは以下。

7つの管楽器、ティンパニ、打楽器と弦楽器のための協奏曲(マルタン)
浄夜(シェーンベルク)

〜休憩〜

3人の箏奏者と室内オーケストラのための『散乱系』(山本和智)

この日の座席は、前方2列目下手。もうちょっと後ろでも良かったな。

1曲目のマルタンは初めて聴きましたが、第1楽章での短調で連なる管楽器群のスリリングな独奏は緊張感に溢れ、かなり引き込まれましたが、神妙な第2、再び盛り上げていく第3に至るうちにちょっと散漫な印象になっていき、集中力があまり続きませんでした。

続いての“浄夜”では、オケを若干上手に寄せ、下手側で狂言師が舞を披露するという趣向。しかし取って付けたような印象は否めず、下手寄りの座席だった僕は若干不満が残りました。とは言え、オケの演奏は、時折弦が引きつった音を出してはいたものの、ひんやりとした悲壮の中から滲むように幸福感が溢れ出す曲のムードをとても美しく奏でていて、やはり良い曲だなぁ、と改めて感じ入りました。譜面台にライトを付け、序盤は真っ暗の中から立ち上がり、最後は暗闇に消えていく演出も効果的でした。

約20分の休憩後、山本氏の初演曲。3人の箏奏者はそれぞれ2台の箏を担当するため、ステージ上には6台の箏が並べられました。いずれも奏者を囲うようにくの字に配置され、それぞれ2台のうち1台は、この日のための大仕掛けが施されていました。箏の各弦の端に絹糸を括り付け、その絹糸の反対側は客席の上を通り、後方上部の壁面にS字フックで固定され、ぴんと張ったその糸の途中に使い捨てのプラスチックコップを竹ひごで止めていました。数十本の糸が頭上に張り巡らされ、透明のコップが浮いているという不思議な景色。さらに箏奏者の傍にはスチール缶に長いバネを繋いで横に真っ直ぐ張ったものも用意されていました。

それらのセッティングを20分の休憩時間に行う予定が、箏と糸を結ぶ作業が予想以上に時間を取り、5分ほど伸びてしまったので、その間山本氏が笑いも交えた演目の解説で場を繋いでいました。自分と同年代ということもあり、親近感わきました。

演奏が始まり、3人が一斉に糸が結ばれた箏を叩くように弾くと、後方上部から、からからから……というコップが揺れる音と、びいいん……というさわりのようなびびった音が混じりながら降ってきます。

楽団も箏奏者も現代音楽的な調性感と少ない音数の音楽を、気迫の垣間見える表情で精緻に演奏。箏は金属の棒のようなもの(これで時折、スチール缶の結ばれたバネを叩いて、びょいいん、という音を鳴らしていました)で擦ったり指で抑えた上からつま弾いたり、見慣れない奏法を駆使して様々な音を生み出していました。

僕の座席位置からはあまり見えませんでしたが、上手側のパーカッションは色んな鳴りものを駆使していて、風の音や深く沈む低音、その他どのように鳴らされているのか判然としない音たちが想像力を強く刺激してくれます。

天然のサラウンド音響の中、次にどんなことが起こるのかわくわくしながら聴いていたらあっという間に時間が過ぎ、約20分間の演奏はあっさりと終了。まだまだ聴いていたい、というお客さんの気持ちが態度に出たのか、指揮者が手を下ろし、後ろを振り向くまでの数秒感、沈黙と戸惑いのない交ぜになったような空気がホールに漲り、その後この演目と演奏の素晴らしさに大きな拍手が溢れ出しました。

音響を楽しむのが現代音楽だとすれば、この演目は楽器の鳴りとホールの鳴りを絹糸で結びつけ、特設の音響装置を生み出したようなもので、今ここでなければ楽しむことができないという一回性(山本氏も、この曲をこのような形で演奏できるのは今回だけ、と言っていました)とともに現代音楽の醍醐味を堪能できる素晴らしく贅沢な瞬間でした。

演奏中、糸で結ばれた箏の奥の方にそれぞれホールスタッフの方がしゃがんで丸くなっていたので何をやっているのか不思議だったんですが、終演後そのスタッフの方の弁によると、糸の張力で箏が客席に飛んでいかないように掴まえていたんだそうです。なんという力技。

当初この演目は、セッティングに時間がかかるために1曲目に演奏する予定だったそうですが、結果的には最後に演奏して正解だったようです。途中の長めの休憩時間で却って聴き手の集中力が増したように思いますし、演目としてもこれだけのインパクトを与えるクオリティがあれば、有名な曲で締める無難さよりも、蓋を開けてみるまで何が起こるか分からない緊張感といざ演奏された際の驚きや興奮で締める新鮮さの方が得るものは大きく感じる訳で、京フィルのチャレンジは大成功だったと思います。

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(2015年10月13日現在)

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