この日は京都コンサートホール・大ホールに京都市交響楽団の第592回定期演奏会を観に行きました。
関西の数ある楽団の中でも定期演奏会が毎度満席になることで優良楽団とのイメージも強い京響ですが、この日は2階、3階はかなり余裕があり、入りは8割程度という感じ。客層は意外に広く、10代から20代と思しき男性もちらほらと見かけるほど。
指揮はジョン・アクセルロッド。そして彼によるこの日のプログラムは以下。
歌劇「ピーター・グライムズ」から「4つの海の間奏曲」(ブリテン)
交響詩「海」(ドビュッシー)
〜休憩〜
交響組曲「シェエラザード」(リムスキー=コルサコフ)
プレトークでアクセルロッド氏からも、この二日後にあった「海の日」に触れられていましたが、この日の演目は「海」がテーマ。正に寄せては返す波のように、緩急自在の演奏が繰り広げられました。
「4つの海の間奏曲」は、元になっているオペラを観ていなくても曲の持つただならぬ雰囲気が緊張感を誘いますが、静かな海の描写が何かの始まりを予感させる第1曲、ミニマル・ミュージックを彷彿とさせる第2曲、そして穏やかで雄大な第3曲と丁寧に表情を変えた後に突如激しく鳴り響く第4曲の強奏は、1階最後列に座っていた僕のところにも重く鋭く切り込んでくるほどの力強さでした。
続いてのドビュッシー「海」では、いくつもの波のさざめきが立体的に絡み合って壮大な海を描き出しており、それぞれの音が活き活きと色鮮やかに重なり合う有機的かつ緻密な筆致には息を飲むような迫真性がありました。最後、揺るぎないサウンドによる怒濤の展開でダイナミックに締め括ると、もうすっかり満たされた気分になり、「シェエラザード」を聴かないまま帰ってしまおうかしらと思ってしまうほど。「海」は演奏によって色んな海の表情を見せますが、この日の「海」は、午前中の好天の海、という感じでしょうか。
20分の休憩を挟んで、「シェエラザード」。ここまで迫力ある演奏を聴かせてくれたので俄然期待値が上がりますが、コンサートマスター・泉原隆志によるヴァイオリンソロが始まると、官能的な響きを見せつつも、オケの中で引っ込んだように聴こえてしまっていて少しがっかり。最後列で聴いていたことが仇になったのかも知れません。
演奏自体はやはり申し分無い引き締まった音と緩急自在で壮大なサウンドが聴き手を物語の世界に引き込みます。じっくり、どっしりと奏でるような解釈でしたが、緩急のコントラストははっきりと効かせていて勿体ぶった感じはありませんでした。第1楽章から間を空けずに続いた第2楽章、曲中随一の切り裂くような迫力の強奏で、最後アクセルロッド氏がザッパかと思わせる両手を広げての縦ジャンプ(それ以外にも、曲が盛り上がってくるとお尻を振りだしたり、動きが結構ユーモラスなアクセルロッド氏でした)で締めると、思わず拍手が出そうになるのをぐっとこらえた、という空気が会場内に充満しました。
優雅で軽快な第3楽章から、息をもつかせぬ第4楽章へ。激しくめまぐるしい展開で様々なフレーズがこれでもかと押し寄せ、緊迫した演奏に圧倒されながら心地良い興奮を感じていると、最後は徐々にクールダウンするように穏やかなエンディングへと進み、息を整えながら、恍惚の中、うっとりと終演を迎えました。
どの曲でも、弛緩したようなところやオケが噛み合っていないというようなところが無く、立ち上がりからエンディングまで安定した力強さが保たれていましたし、世間的には評判のよろしくない京都コンサートホールもよくなっていたように思います。惜しむらくは座席が最後列だったせいかオケに包み込まれるような没入感が薄かったので、やはりチケット代をケチるとそれなりの代償はあるものだな、と思いました。