科学の分かりにくさと音楽の分かりにくさに感じる義務教育の役割

「役立つ」研究求める日本の風潮を危惧 ノーベル賞・大隅教授の寄稿に注目集まる

これは科学の「分かりにくさ」が、「絶対に分かりやすくはならない」以上、義務教育で「何が将来本当に人類の役に立つかは長い歴史によって初めて検証されるものだ」ということを徹底して叩き込むしか無いような気がします。

そもそも子供の頃、元素記号を覚えさせられながら、そこに一体何の意味があるのか、覚えて何の役に立つのか、一切分からないまま丸覚え(全然覚えられなかったけど)させられて、蓮舫の言った「2位じゃ駄目なんでしょうか」の理由がやはり分からないままで、ノーベル賞受賞のニュースの度に「日本人すごい」と思いながらも、じゃあ一体何がすごいのかさっぱり理解できない、という人生を歩んできた自分にとっても、科学の歴史について著された本を読み、20世紀初頭のアインシュタインの時点で既に、直感的には全く理解できない理論に頭がクラクラし、量子論の信じられなさに逆に興奮し、それらが「後に」応用されていく流れを知って初めて、科学の研究というものが「何が将来本当に人類の役に立つかは長い歴史によって初めて検証されるもの」であることに、ようやく、何となく近づけたようなことなので、これについては説明し出すと大変時間がかかり、「何が将来本当に人類の役に立つかは長い歴史によって初めて検証されるものだ」とひと言でまとめられても全然納得感が無い、難儀な代物なのだと思います。難儀でなければ、僕が通過している道などとっくに知っているはずの若い研究者や志望者が「役に立つ研究をしたい」と言ってしまっている程だから相当根深いんだと思います。

これは説明すると長い、まとめると伝わらない、というギャップとともに、「専門家では分からないことが分からず、専門家でない人には知るべきことが見えない」というギャップでもあるのでしょう。つまり業界内にいると常識のように思えることも、外から見れば何故それが常識扱いされているのかが分からない、しかし、業界内の人間にとっては、それはもう常識として定着し切っているので、今更外の人が理解できるように言語化することが出来ない、という、まあどこの業界でも大なり小なりあることがここでも起こっているということですかね。

良く似た話のひとつとして、クラシックの楽団がありますね。数年前に大阪の楽団が市からの補助金を切られ、現在大変な苦労をしているわけですが、楽団を支持する側が「文化を知らない」と言っても、行政側は「文化は行政が育てるものではない」と全く理解されませんでした。これは説明不足や説明下手ではなく、「説明すると長い、まとめると伝わらない」であり、「専門家では分からないことが分からず、専門家でない人には知るべきことが見えない」なんだと思います。この状況では、出資する側に疑問が沸いてしまったが最後、後戻りするのが非常に困難になってしまいます。「何が将来本当に人類の役に立つかは長い歴史によって初めて検証されるものだ」という意味でも、今国内の楽団が苦しんでいて、将来その数が少なくなっていった時、それによって引き起こされる文化的影響は後の世にはっきりとすることなのでしょう。

そこで、冒頭に書いた「義務教育で徹底的に叩き込む」しかないのではないかと思うわけです。何故ならここで「説明すると長い」の部分が解消される、逆に言えば、長い説明を半強制的に聞かせることが出来るのは義務教育期しか無いということです。

科学の授業であれば、古来から科学者たちが気の遠くなるような研究や思考実験の積み重ねで世界が一歩一歩着実に解明されていき、その上に技術の発展が、時に研究意図とは無関係に、時にその理論が良く理解できていないままに実現してきたことを知れば、大隅氏の述べる「自分の研究が、いつも役に立つことを強く意識しなければいけない訳でもない」理由もある程度納得がいき、科学というものに対するイメージも少しは改善されるんじゃないかという気がします。それでも、10代の少年少女にそれらを吸収してもらうには、先生の腕に相当依存するとは思いますが。

音楽についても、音楽教育の中で理論や実演以上に教えるべきは、文化的背景であったり、歴史の方ではないかという気がします。こちらも先生が、クラシック音楽の「面白いところ」をどう上手く伝えられるかが腕の見せ所になってくるかも知れませんが、そこは実のところ、楽団員に任せてみては……という話もあったり無かったり。

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