あだち麗三郎/伴瀬朝彦/あだち麗三郎式ポストストラクチュアル人体実験 at HOP KEN / 好様 (Osaka)

この日はHOP KEN / 好様で行われた、あだち麗三郎伴瀬朝彦の弾き語りと、BIOMANとのトーク “あだち麗三郎式ポストストラクチュアル人体実験”を観に行ってきました。

場所は、以前のepokから今夏再スタートを切った杉本くん夫妻のお店。開店直後以来久々に来たら、品揃えはさらに充実。あれこれ気になるアイテムだらけで、財布に余裕があれば思う存分散財したくなる品揃えでしたが、今月は特に財布に全く余裕がないため必死に我慢しました。給料日にはリベンジしたいです。

雑貨コーナーに置いてあった絵本などをパラパラ見ているうちに(これまた欲しくなってしまうんですが……)開演時間となり、あだち氏、BIOMANによる対談がスタート。BIOMANがあだち氏が音楽活動と並行して行っている身体ワークショップについて訊き、実際にどんなことをやっているのか簡単に実践してみるというものでした。自分の身体を意識的に客観視することで、身体の使い方を合理化していくような話でしたが、特に興味深かったのは、視覚が捉える情報は「脳が見ている」という話。つまり自分が普段見ていると思っている情景は、眼球に映っている絵そのものではなく、脳が変換して描写しているのだということで、これは僕が視聴会/試聴会で何度か触れている「音は耳ではなく脳が聴いている」ということ(大ざっぱに言うと、音の良し悪しを聴き取る能力には、音の違いを区別し理解するための経験値の方が、聴覚の劣化以上に大きく作用する、というようなこと)とつながっていて、さらに最近僕が意識している「脳と肉体はそれぞれ別個の意志を持ち、脳が欲していることも肉体が欲していないことがある」こと(例えば、「甘いものがたくさん欲しい」と頭で思って大量に接種しても、食べると胃がもたれたり腹を下してしまう、など)にも通じていて、大変得心しました。

途中、脳の働きを身体の動きから解放するような簡単な実験(ひとつは、あだち氏が上に向けて伸ばした右掌の上にBIOMANが自身の右掌をしたに向けて重ね、あだち氏が素早く前後左右に動かすのにBIOMANが追従するというもの。目で追うとついていけなくなるが、目を閉じると簡単についていけてしまう。もうひとつは、あだち氏が踏ん張って立っているBIOMANを手で力づくで押しやろうとすると全力で押しても殆ど動かないものが、頭の意識を変えるだけで簡単に押しのけられてしまう、というもの。途中から伴瀬氏が猜疑心全開で参加するものの、やはり簡単に押しのけられてしまっていました。“目の前の人を強く押そう”とすると駄目で、無理に押しのけるのではなく、“そちらの方向に進もう”とすると簡単に押しのけられてしまう、というようなことでした)で驚かせ、最後はお客さん全員が会場内を歩き回りながら、「人波を上手にすり抜ける方法」(身体の前に指を真っすぐ伸ばした片手を、手首から先が正面に向かって腹部から垂直に伸ばすような形にして、魚が泳ぐようなジェスチャで進行方向を探りながら進むと良い、というようなことでしたが、狭かったからか人が少なかったからか、いまいちピンと来ませんでした)を実践して終了。

短い転換の後、あだち氏の弾き語りへ。以前観た時はバンド編成でしたので、ソロを観るのは初めて。やや不安定なギターの音をバックに、落ち着いたトーンでしなやかに歌い、気の向くままに曲を連ねていくような、終始リラックスした雰囲気は、先のトークの内容と相俟って、会場全体を彼の空気で柔らかく包み込んでしまうようなパフォーマンスでした(間もなく新譜が発売されますが、それに合わせたセットリストでも無く、そのアルバムにも入らない新曲も演奏していました)。一方、曲のブレイクで首を後ろの窓側に傾げ、外を通る救急車の音に耳を寄せるなど、周囲の音や空気にビビッドに反応する鋭さもあり……と思うのも、先のトークがあったからでしょうか。

続いて伴瀬氏の登場。伴瀬氏もソロで聴くのは初めてでしたが、歌、ギター、曲と三拍子揃った安定感と全体から滲み出す渋みは、音源で耳にするよりも遥かに味わい深く、終始聴き惚れて身を揺らしていました。夕刻よりスタートしたこの日のイベントもこの時にはすっかり暗くなり、大人の夜のムードを醸し出したダンディーで色気溢れるナンバーが実に上手くマッチしていました。こちらはあだち氏とうって変わって、現在制作中というソロアルバムのための新曲を中心にした演奏。アルバム、楽しみです。

最後は伴瀬氏とあだち氏の共演で、それぞれの自作曲を交互に演奏。あだち氏はソロでは使わなかったサックスとピアニカも使っていました。7インチでもリリースされた“ベルリンブルー”、元々黒岡まさひろとのユニット・あだくろで演奏していた“富士山”(作詞が黒岡氏の息子・黒岡はじめによるものということで、あだち氏が新譜への収録に先駆けてJASRAC登録したとのことで、もしアルバムが大ヒットして彼に大金が入るようになったらどうなるんだろう……という妄想話もしていました。結論は「(アルバムが)売れないで欲しい by 伴瀬氏」)など、新譜の収録曲も披露しつつ、最後は片想いの“すべてを”で幕。二人とも適度に肩の力が抜けた感じで、「この調子で後10曲やります」と伴瀬氏が言うほどリラックスした感じのこの最後のセッションが一番心地良かったですね。

この日の17時スタートで21時終演というスケジュールも、たっぷり楽しめる上に終わりも遅すぎず、時間の区切りがなかなか良い感じでした。

トークもあってライブもあって、どちらもそれぞれとても楽しく、かなりお得感のある一夜でした。ライブイベントにトークが付いてくると、ライブ一辺倒よりも濃密な感じがありますね。もっとトークとのハイブリッドなイベントがいっぱいあると良いなと思いますが、杉本くん曰く「関西はトークの人材不足」なんだそうで。残念だなぁ。僕、上手に司会できる自信あるんですが。

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