ドイツ試聴会記に関する感想らしきもの(または「ベラフォンテは死なず」)

A&Mに訪問し、三浦社長から今週土曜日産経新聞の夕刊に掲載されるコラムの原稿を読ませていただいた。会社までの帰路で読みながら、興奮して鳥肌が立ってしまった。

コラムを書かれた記者はバカンスでドイツに行っていたのだが、ちょうどその時訪問先の街では、三浦社長が小さなオーディオショップで試聴会を行っていた。

小さなスペースに、たった一組のオーディオセットで挑む試聴会。僕がピュアオーディオ視聴会の出張編で行っている環境とほぼ同じだが、欧米では主流のようだ。記者は、総花的に各種取り揃え、新製品が出たら諸手で褒めそやす日本のオーディオ業界が「いい消費者」を育てず、衰退の一歩を辿る現状に至ってしまった原因のひとつではないかとなかなか手厳しい。実際、ドイツではアナログオーディオは機器・ソース共に充実しているらしく、やはり文化として溝を空けられているのは間違いないだろう。

核心はここからだ。

三浦社長はきっと日本での試聴会と同じ調子だったのだろう、「これは1959年の録音です」と一枚のレコードを出した。

ハリー・ベラフォンテ。

僕が共催している視聴会でも何度かかけていただいたので、聴いたことのある人はすぐ分かるだろうけど、三浦社長がハリー・ベラフォンテを手にしたということは、それはイコール「カーネギー・ホール」のライブ録音盤となる。そしてそのレコードを取り出したら、それは同時に「Matilda」をかけるということ。原稿には「ハリー・ベラフォンテ」としか書かれていなかったが、恐らくそんなところだろう。

現地ドイツのお客さんは、59年と聴いて失笑したそうだ。きっと三浦社長は心の中でこうつぶやいていたのではないか。

「まあ聴いてごらんなさいよ」

針を落とすや否や、失笑していたお客さんの顔が変わった。小さな試聴室に突如として展開される、目の前に広がるカーネギーのステージ……一瞬にして聴衆はホ―ルの最前列にワープし、軽妙に歌うベラフォンテを目の当たりにする。

カーネギー・ホールの「Matilda」は、11分に及ぶ歌と笑いと熱狂の大スペクタクルだ。ライブコンサートの楽しさを余すところ無く真空パッケージしてある。サビのフレーズをコール&レスポンスしながら延々と続けながら、際限なく盛り上がり続ける。

果たせるかな、再生終了後、客席から拍手が沸き上がったという。

ドイツというオーディオの本場とも言える国のオーディエンスが、日本のガレージメーカーの再生音で熱狂する。僕は、ラブパレードのファイナル・ギャザリングでレコードをプレイした石野卓球のことを思い出した。

ピュアオーディオ視聴会でのベラフォンテ初出はこちら。
http://www.rockets.co.jp/blog/?p=1006

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