オルケスタ・リブレ plays 三文オペラ at 茨木市市民総合センター (Osaka)

この日は茨木市市民総合センターで行われた、オルケスタ・リブレによる「三文オペラ」を観に行きました。

DieDreigroschenoper

オルケスタ・リブレの「三文オペラ」と言えば、既に月世界CDで何曲かは耳にしていましたが、ひとつの舞台として作り上げられたものを観るのは初めて。「三文オペラ」についての知識もこちらの文章を読んだりYouTubeで予習した程度。

入場前に、物販で「Plays Duke」のアナログ盤を購入。ずっと買いそびれていて、気がつけばあちこちのネットショップで品切れ状態となっており焦ってしまいましたが、結果的には送料もかからずお得なお買い物に(手提げ袋も無しに渡されたので持ち帰りに若干不便しましたが)。

客層は、年齢高めですが老若男女幅広い感じ。400席強の座席はほぼ埋まっている印象でした。僕は最前列のド真ん中。ちょっと近過ぎて若干舞台を見上げる姿勢で、譜面台でよく見えないところも。舞台中央に楽器がずらりと並び、上手には高座、楽器群の後ろは一段高くなっていて、そこにポールで立てられたウィッグスタンドが5本、それぞれに警官の帽子や山高帽、女性のカツラがかけてあります。

開演時間を少し過ぎると、柳原陽一郎とリブレのメンバーがぞろぞろと登場。哀愁漂う序曲を演奏するバンド。マイクを通さない生音での音が、楽器の配置や距離感も含めてダイレクトに響いてきます。ギターがアンプを通していましたが、生楽器と見事にバランスしていました。

序曲が終わるころに高座に講談師の神田京子が登場。軽妙な語り口で聴き手を物語の世界へと誘い込み、ベースが“Mack The Knife”のテーマを奏で始めると、白い中折れ帽とジャケットに身を包んだ松角洋平がゆっくりと現れ、柳原氏が歌い始めます。いよいよ「三文オペラ」本編の幕開け。

松角氏はがっしり締まった体躯で、主役のメッキー・メッサー、乞食王ピーチャム、警視総監タイガー・ブラウンら登場人物を(舞台後方の帽子・カツラを使い分けながら)力強く演じ分けます。柳原氏はシニカルさを全開にした独特の歌い回しで人間の暗部を冷ややかに表現。そして舞台を進行する神田京子はユーモアとアドリブをふんだんに盛り込み、辛辣かつ猥雑な物語をカラッと陽気に彩ります。

リブレの演奏は饒舌でスマート。非の打ち所の無いハイクオリティなバンドサウンドが物語を否応無しに盛り上げます。この舞台、バンド・歌・演劇・講談という四者が拮抗して個性をぶつけ合うので、全編観どころ・聴き所満載なんですが、それでも舞台上からは不思議と、緊迫感よりも互いに引き立て合うような信頼感や安心感が伝わってくるような腰の据わった雰囲気が漂ってきます。お客さんに緊張感を悟らせない、一流ならではの所作といったところでしょうか。

大体どんな舞台でも、声の大きい人がその場の空気を作っていくものですが、この日最も喋ったのは勿論神田氏。客いじりやメンバーいじりは序の口、蓬莱の豚まんの話ばかりする、立ち上がってかっぽれを踊る、マイクを片手にプロレス実況のようにまくしたてる、舞台に降りて練り歩く、さらには「この人数を呼んで3,000円ってどうですか、ボランティアですか(この日のチケット代は「三文」にかけて3,000円、65歳以上、障害者及びその介助者2,500円、さらに24歳以下は1,000円という破格設定でした)」「(10代のお客さんに向かって)貴方が大きくなった時に日本が良くなるようにあたしたち大人が頑張るから」と啖呵を切るわ、会場になった茨木市にちなんで茨木童子(このWikipediaに写真がある茨木童子像、会場近くの橋にあります)をがっつり語るわで、進行役なのか引っ掻き回す役なのか分からない大活躍ぶり。

その神田氏と松角氏が場面ごとに様々な人物を担って対話することで物語は進められていきますが、ところどころで現れる「その他大勢」を時折リブレのメンバーが担当し、素人感溢れるセリフ回しで笑いが漏れたり松角氏からやり直させられたりと、ユルい笑いどころを作っていきます。中でも、買収される看守役(松角氏演じるメッキー・メッサーに「おい、そこで太鼓叩いてるおっさん」と呼ばれてましたが)を努めた芳垣安洋の関西弁、絶妙なタイミングで「がってんしょうち」と流麗にセリフをこなしたギデオン・ジュークス、噛んでやり直させられるわルーシーのカツラを被り、無茶振りされた挙げ句松角氏から「気持ちわりぃ〜」と言われた青木タイセイが見どころでした。

このようにセリフにはかなり自由度のある印象でしたが、切れ味のあるアレンジと盤石のテクニックに支えられた演奏も、元々ジャズが基調になっているので、随所でアドリブの余地があったように思います。この日は1回きりの関西公演(前後でリブレ+柳原氏のセットでのワンマンは磔磔・MOERADOでありましたが)でしたが、2〜3回の連続公演で何度か観られたらもっと楽しかっただろうな。

登場人物はいずれも社会の最下層にうごめく人々。出てくる言葉は世間を毒づく恨み節ばかり。ラストは、メッキー・メッサーが絞首刑にされる直前に、何故か女王から恩赦が下り、死刑は取り消し、金とお城が転がり込むという荒唐無稽な展開も、逆に救いの無い世の不条理を濃厚にするばかり。それでも、柳原氏が皮肉たっぷりに朗々と歌い、バンドが鳥肌の立つようなアレンジで名演を繰り広げ、松角氏が人生を嘆き、神田氏が猛烈な勢いで語っているのを聴いていると、何度も感情の波が押し寄せてきて、胸がいっぱいになり、涙が出そうになりました。ブレヒトの世界に胸を打たれたとか、ワイルの曲に感動したとか、神田氏のアジテーションに心揺さぶられたとか、そういうことではなく、ただただ、眼前で一流の表現者たちによって生み出された様々な感情の塊が怒濤のように浴びせられ、圧倒され尽くして、こちらの胸の内から感情が溢れ出してしまったんじゃないかと思います。

ジャンルに囚われない……などという言葉は使い古されて何の説得力も持ちませんが、これがジャズなのかバラッドオペラなのかジングシュピールなのかミュージカルなのか演劇なのか講談なのか、それともそれ以外の何かなのか、誰にも決められないでしょうが、そんなことがどうでも良くなるほど、エンターテインメントとして強大なエネルギーと密度・濃度・充実度を持った、他に類を見ない極上の舞台でした。そして、このバンドがその名に掲げる「リブレ(自由)」の意味深さを、改めて感じ入るような、本当に素晴らしいパフォーマンスでした。

自由ってすごいなぁ。

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