「おかえりなさい、うた Dusty Voices, Sound of Stars」 at epok(Osaka)

この日はepokでの上映企画「おかえりなさい、うた Dusty Voices, Sound of Stars」に行ってきました。

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開演ギリギリの時間に会場に着き、慌てて着席したのが最前列。マルチチャンネルでの音声のみの上映だったので、本当は真ん中辺りが良かったと思うんですが、そう思っているうちに間もなく上映開始。

音声再生システムは、ONKYOのパワーアンプ/プリアンプでフロントとリアの4chを鳴らし、センターとウーファーにPAシステムを使った、ピュアオーディオとPAのハイブリッドといった感じ。スピーカーはPA用のJBLで、Cambridge Audioのプレーヤーでdts-CDを再生していました。

ギターの音、話し声、モノローグ、歌、古いレコードから聴こえる音楽、ホーミー、足音、様々な環境音……などなどが、時に遠くから、時に近くから、あちこちに空間移動しながらコラージュされて響いて来ます。PAオンリーの歪み感でもなく、ピュアオーディオの繊細さでもない、生々しくも太く力強い音。その音が何の音なのか、その声の主が誰なのか(分かる人もいましたが)、どんな格好をしているの分からないまま聴いていると、照明の落とされた真っ暗な会場内で眼前に次々と様々な映像が広がっていきます。

それは全く装飾のない広い舞台での演劇のようであったり、実体のない霊魂のようなものが語り合うファンタジー映画のようであったり、庭から暖かな陽が差し込む古い日本家屋の中で木の椅子に腰掛けている姿であったり。音の大きさによるものか、その姿は実際の大きさよりも遥かに大きく感じられ、まるで目の前に映画館の大きなスクリーンが見えるようでした。

真っ暗な中で、一切の説明の無いまま耳に飛び込んでくるその音たちに、なんと沢山の情報が込められているのか、という驚き。そしておそらくその音からイメージするもの、喚起されるものは人それぞれ全く違うものであるように思います。

途中、かわなかのぶひろ、グジェ・クルク、アリバート・アルガヤの三人が自身の昔の記憶に残る歌を披露するくだりがあります。それぞれが童謡や昔懐かしい歌謡曲を歌うんですが、その流れとリンクするように、本編中に何度か入る、レコードで曲をかけているシーンは、まるで蓄音機からSP盤の音が流れているような、どれも古く懐かしい感触のあるものばかり。さらに本編中にインサートされる、山本精一が伴奏無しで歌う曲、子供たちやテニスコーツのさやが歌うお遊戯的な曲も、どれも聴き手のノスタルジックなところを刺激するようなもので、人によってそれは真っ暗な視界に自身の原風景を蘇らせるものであったかも知れません。しかしそれは歌い手についての知識、曲についての情報の有無や思い入れによってまるで違う景色を描くはずで、歌とは本来そういうものであると改めて思うとともに、音以外の音を一切遮断して耳を傾けると、そういった歌や音に染みついている自身の記憶の引き出しは強く刺激されるんだな、と思いました。

一方で、音が持つ物質的な感触も真に迫っており、超音波のような女性の声は耳に突き刺さるとともに視界にフラッシュを炊かれるような思いがしましたし、様々なシチュエーションで録られた音は、その音の表情によって視界のあちこちに現れては消えていきました。面白かったのは、リアスピーカーの音が真後ろではなくて真上の少し後ろ辺りに感じられたことで、それによって前方から向かってくる音は頭上を覆うように広がりながら流れていくので、いわゆる音が水平に回るサラウンドとは随分と違う心持ちがしました。それは僕が最前列で聴いていたからなのか、僕の耳がおかしいからなのかはよく分かりませんが。

前衛映画のようで、ダムタイプのようなダンスパフォーマンスのようで、そのどれでもないけど、このサウンドシステムと空間が無ければ再現出来ないような、具象的なのに抽象的で、こちらの感性に強く問いかけるような、とても刺激的な体験でした。

上映は今度の日曜日まで。関西での上映はこれっきりのようですので、この機会にぜひ多くの人に体験してもらいたいと思います(音響的には杉本くんのこだわりでONKYOのアンプを導入しただけあって、東京の上映より良い音だという噂も)。多分当日で入れると思いますので、仕事終わりに時間が空いたタイミングでフラッと遊びに行くのも良いかと。友達と一緒に行って、終演後に色々話しながら帰ると、お互い思うことが違っていて、きっとすごく面白いんじゃないかと思いますよ。

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1 comment on “「おかえりなさい、うた Dusty Voices, Sound of Stars」 at epok(Osaka)

  1. 生西

    ご観覧ありがとうございました。途中何度か流れるレコードの音は、まさに蓄音機でSP盤をかけている音です。かわなかのぶひろさんがかけてます。

    Reply

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