今更読んでも衝撃的な「ファスト&スロー」の感想や引用

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いわゆる行動経済学の勉強をと思って、Amazonで上下巻を、最安値を目指して購入。すると、上巻はハードカバーが届き、下巻は文庫が届くという若干の残念さが漂う結果に。ネットショッピングはなかなか一筋縄ではいきません。

2012年に刊行された本で、内容は、人間の不合理な意思決定について、膨大な研究、実験、調査による様々なデータによって、これでもかというほどしつこく、しつこく、念入りに解明していくというもの。「あー確かにそういう判断するわー」という「あるある本」としても驚きと納得の連続で非常に面白いし、例えば僕らのような広告を含むPRツールのデザインの仕事に携わっていると、「こうした方が読む人には好印象に伝わる」と判断していることが、ちゃんとデータで裏付けられていたりして、ちょっとした答え合わせ感覚もあります。これは言い換えると、「自分が直観的に判断していること」を客観的に捉えた本なのだから、「自分が直観的に判断していること」を客観的に捉えて、それを利用することで例えばキャッチコピーなどを考えている僕らはほぼ同じプロセスを辿っていて、それがどこまで裏付けがあるのか、ということを別にすれば、近しい結論に至るのはある意味当然でもあるわけです。

但し、この本の念入りさと比べれば、そんなものは「まぐれ玉が当たった」程度のもので、上下巻に渡って人間の思考パターンを徹底的に分解されると、その裏取りの仕方も根拠の立て方も投げる球のバリエーションも、いかに貧弱で後ろ盾の無いものかを思い知らされるばかりです。

時折、例題がアメリカに住んでいないとピンと来ないネタで、著者の推測どおりにこちらが誘導されずに集中力が途切れる場面があり、本書が「仮説を立て、実験によって導き出された結果から結論を出す」パターンの繰り返しなので、集中力が切れると音を上げそうになります。特に下巻になると、上巻300ページで散々掘り下げた上に、さらに細かく、執拗に、ネチッこく分析していくので、驚きと疲れがほぼ半々で並走するような読み方になっていきました。言葉は平易で、とても分かりやすいんですが、油断すると「さっきから同じ話を繰り返してるんじゃ……」と頭がのぼせてきました。

というわけで、最後の方を読んでる頃には最初の方の話がすっかり抜け落ちてしまっていたので、思い出しがてらドックイヤーした部分を頭から読み返し、書き起こしていきました。総文字数50,000字強。それだけでヘトヘトになりましたが、より消化度は高まりました。うん、この復習の仕方、いいかもしれない。本を開きっぱなしで固定できるFlipKlip買いましたよ。机上でやるにはほんと便利です。1/3ぐらいはiPhoneのフリック入力でやりましたけど。

で、自分の実務にかかわりそうな部分に絞っていくつか引用したいと思います。用語についての説明は端折りますので、気になる方は買って読んでください。

神経系は、人間の体のどの部分よりも多くのブドウ糖を消費する。そして非常な努力を要する知的活動は、ブドウ糖というコストで換算すると、とりわけ高くつくと考えられる。難しい認知的推論をしているときや、セルフコントロールを要する仕事に取り組んでいる時には、血液中のブドウ糖が減る(血糖値が下がる)。これは、全力疾走中のランナーが筋肉に蓄えられていたブドウ糖を消費する現象とよく似ている。このことから、自我消耗の影響はブドウ糖の摂取で解消できると考えられる(中略)さて実験では、次のタスクに移る前に、参加者にレモネードを与える。半分にはブドウ糖が入っており、残り半分には人工甘味料のスプレンダが入っている。レモネードを飲んだ後の第二のタスクは、直感を抑えないと正しく答えられない。通常は、自我消耗した人は非常に直感的エラーを犯しやすくなる。スプレンダ入りレモネードを飲んだ被験者は予想どおりエラーを犯したが、ブドウ糖入りを飲んだ被験者は自我消耗の兆候を示さなかった。脳が使えるブドウ糖のレベルが回復したおかげで、正答率は下がらなかったと考えられる。

アインシュタインの髪がボサボサなのは、ヘアースタイルに自身のエネルギーを割きたくなかったからだという話ですが、このことからすると理に適っていると言えましょう。そういえば、ブドウ糖を速攻で摂取できるということで、ラムネ菓子が話題になったことがありましたが、通常は食物の中から摂取し、体内で変換・吸収されるものなので、直接吸収するのはあまりよろしくない、という話もどこかで目にしました。

イスラエルで行われた実験で、そうと知らずに被験者になったのは、八人の仮釈放判定人である。彼らは一日中、仮釈放申請書類の審査をしている。書類は順不同で提出され、審査にかける時間は平均六分という短さである(仮釈放の申請は却下が前提で、認められるのは35%にすぎない)。実験では、決定に要した時間とともに、判定人に与えられる三回の食事休憩、すなわち朝、昼、午後の休憩時間も記録された。そして休憩後の経過時間と許可件数の比率を算出したところ、各休憩直後の許可率が最も高く、65%の申請が認められた。
その後は次の休憩までのに時間ほどの間に比率は一貫して下がっていき、次の休憩直前にはゼロ近くになった(中略)疲れて空腹になった判定人は、申請を却下するという安易な「初期設定」に回帰しがちだ、ということである。

クライアントへのアポを、午前中に取るか、昼イチに取るか、夕刻に取るか。担当者との関係性やアポ前後の先方の忙しさなど不確定事項も多いですが、リフレッシュしているであろう昼休み直後のほうが、こちらの提案にじっくりと耳を傾けてくれる余裕がありそうではあります。

バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
バットはボールより1ドル高いです。
ではボールはいくらでしょう?

きっとあなたの頭の中に数字が閃いたことだろう。勿論それは、10、つまり10セントだ。この簡単な問題の特徴は、すぐに答が思い浮かぶこと、そしてその答は、直感的で説得力があり――そしてまちがっていることである。検算してみれば、すぐにまちがっていると気づく。何故なら、ボールが10セントなら、1ドル高いバットは1ドル10セントになり、合計で1ドル20セントになってしまうからだ。正解は5セントである。

これは10%値引きと10%ポイント還元のどちらが得か、という問題と似ています。つまりすでに我々の思考の落とし穴は企業によって利用されてしまっているということですね。ではどうすればいいのかと言うと、「我々はどう利用するか」を考えましょう、ということです。

この実験では、ニューヨーク大学の学生(18から22歳)に五つの単語のセットから四単語の単文を作るよう指示する(たとえば、彼/見つける/それ/黄色/すぐに)。このとき一つのグループには、文章の半分に、高齢者を連想させるような単語(フロリダ、忘れっぽい、はげ、ごましお、しわなど)を混ぜておいた。この文章作成問題を終えると、学生グループは他の実験に挑むため、廊下の突き当たりにある別の教室に移動する。この短い移動こそが、実験の眼目である。実験者は学生たちの移動速度をこっそり計測する。するとバルフが予想したとおり、高齢者関連の単語をたくさん扱ったグループは、他のグループより明らかに歩く速度が遅かったのである。
この「フロリダ効果」には、二段階のプライミングが働いている。第一に、一連の単語は、「高齢」といった言葉が一度も出て来ないにもかかわらず、老人という観念のプライムとなった。第二に、老人という観念が、高齢者から連想される行動や歩く速度のプライムになった。これらは、まったく意識せずに起きたことである。

コピーライティングにおいて、直接的表現を避けた場合に「これはプライミング効果と言って……」と説明できれば、クライアントの「具体的な単語を入れてください」といった「できれば避けたい」修正をかわすことが出来るかも知れません。

この調査はアリゾナ州の複数の選挙区で実施されたもので、学校補助金の増額案に対する賛成票は、投票所が学校の場合、そうでない場合よりも優位に多かったのである。これとは別の実験でも、教室やロッカーの写真を見せられた人は、学校関連のプロジェクトを支持する率が高まることがわかった。しかも写真の効果たるや、生徒の親か一般有権者かの違いよりも大きかった。

イベントを行う際の場所選定に意味付けすることが役に立つ可能性、そして、プレゼン資料作成の際にビジュアル要素が選定の後押しになる可能性。

ミシガン大学とミシガン州立大学の学生新聞で行われた実験は、私も大好きな実験の一つだ。数週間にわたり、新聞の一面には広告のような囲みが設けられ、そこにトルコ語(またはトルコ語風)の次のような単語が代わる代わる登場した。kadirga、saricik、biwonjoni、nansoma、iktitafである。単語が繰り返される頻度はまちまちで、期間中に一度しか登場しないものもあれば、日を変えて二回、五回、10回、さらには25回も顔を出す単語もあった(片方の大学新聞で頻度が最も高い単語は、別の大学では最も低かった)。これらの単語についての説明は何もなく、読者からの質問に対しては「広告主は匿名を希望している」と回答された。
このふしぎな一連の広告が終わると、実験者は学生に質問表を送り、単語が何か「よいこと」を意味していると思うか、それとも「悪いこと」か、印象を訊ねた。結果は驚くべきものだった。頻度の最も高かった単語は、一回か二回しか登場しなかった単語に比べ、「よいこと」を意味すると考えた人がはるかに多かったのである。この実験結果は、中国の感じ、人間の顔、ランダムに作成した多角形などを使った他の実験でも検証されている。

これはまさに古典的なテレビCMの手法そのものですが、うちの母などは未だに「CMで見た」と言って何かを買ってくるのですから、やはりいまもなお有効な手段なのでしょう。

ギルバートは、信じないという行為はシステム2の働きだと考え、この点を立証するためにエレガントな実験を行った。参加者は「ディンカは炎である」といった無意味な文章を読まされ、数秒後に「正しい」と書かれたカードか「まちがい」と書かれたカードを見せられる。その後に、どの文章が「正しい」に分類されたか思い出すテストを受ける。ただし一部の参加者は、実験中ずっといくつかの数字を覚えているよう指示されている。こうしてシステム2が忙殺されると、まちがった文章を「信じない」ことが難しくなるという偏った影響が表れた。実験後に行われた記憶テストでは、数字を覚えているせいで疲れ切った参加者は、大量のまちがった文章を正しかったと考えるようになった。このことが示す意味は重大である。システム2が他のことにかかり切りのときは、私たちはほとんど何でも信じてしまう、ということだ。
システム1はだまされやすく、信じたがるバイアスを備えている。疑ってかかり、信じないと判断するのはシステム2の仕事だが、しかしシステム2はときに忙しく、大体は怠けている。実際、疲れているときやうんざりしているときは、人間は根拠のない説得的なメッセージ(たとえばコマーシャル)に影響されやすくなる、というデータもある。

これもまたテレビCMに利用されている人間の心理でしょう。教養番組が夜に多いのはそのためでしょうか。

さて読者は、アランかベンか、どちらがお好きだろうか。

アラン:頭がいい、勤勉、直情的、批判的、頑固、嫉妬深い
ベン:嫉妬深い、頑固、批判的、直情的、勤勉、頭がいい

もしあなたが大多数の人と同じなら、ベンよりアランのほうがずっと好きだろう。最初の方に挙げられた性質は、後のほうで挙げられた性質の意味すら代えてしまう。頭のいい人が頑固なのは十分な理由があると考えられるし、場合によっては尊敬にも値する。だが妬み深くて頑固なくせに頭がいいのは、一段と危険だと感じられる。しかもハロー効果は両義性を覆い隠す。“bank”が「銀行」と「川岸」のどちらにも解釈可能であるように、「頑固(stubborn)」は「頭がかたい」ともとれるし「意志が強い」とも解釈できる。そうなると、第一印象でできあがった文脈に合わせて解釈されることになる。

コピーライティングの際には自然と行っていたりもする「好印象を与えるために順序を最適化する」行為、しかし、プレゼンや会議の席など、口頭で述べる際にはないがしろにしてしまっているかも……という自戒。

学生の論文試験を採点していたときのことである。始めのうち私は、ありきたりのやり方をしていた。つまり一人の学生の提出物(二本の論文を綴じてある)を取り上げ、課題1の論文を読んで採点し、続けて課題2を読んで採点し、合計を出し、それから次の学生に移るというやり方である。だがそのうち私は、自分のつける点数が課題1と2でひどく似通っていることに気づいた。もしかするとこれはハロー効果ではないか、つまり課題1の採点が課題2の評価に影響を与えすぎているのではないか……。(中略)そこで私は新しいやり方をすることに決めた。一人の学生の論文を二本続けて読むのではなく、まず課題1だけを全員読み、その後に課題2に移る。最初の論文の点数は表紙の裏に記入し、二本目を読むときに、一本目の点数に(たとえ無意識的にでも)惑わされないようにした。新しい方法に切り替えてすぐ、私は落ち着かなくなった。自分の採点に以前ほど自信が持てなくなり、これまで感じたことのない居心地の悪さをひんぱんに感じるようになった。というのも、ある学生の二本目の論文に失望して低い点をつけ、いざ表紙の裏に書き込もうとすると、一本目には高い点数をつけていた、ということがちょくちょくあったからである。その上、一本目との差を減らそうとして、これから書き込む二本目の点数を変えたくなる誘惑にも駆られた。絶対にそのようなことをしてはならない、と自分を律するのはかなり大変だった。この結果、一人の学生の点数が課題1と2で大幅に違うケースが頻出することになる。

これはなかなか驚かされる結論です。特にコンペティションの際、多くは複数案提出するわけですから、「捨て案」という発想が(見せる順番が把握できるのなら別でしょうが)大きく足を引っ張る可能性もあるというわけです。

判断の独立性(ひいてはエラーの相関性の排除)を保つ原則は、会議にさっそく応用できる。大方の企業の経営幹部は一日の大半を会議に費やしていると想像されるが、会議に当たって簡単なルールを決めておくと役に立つ。それは、議題について討論する前に、出席者全員に前もって自分の意見を簡単にまとめて提出してもらうことだ。こうしておけば、グループ内の知識や意見の多様性を活かすことができる。通常の自由討論では、最初に発言する人や強く主張する人の意見に重みがかかりすぎ、後から発言する人は追随することになりやすい。

なるほど、早速実践したい……と思って実践できれば苦労はない……とも、言ってられないよなぁ。

自信過剰――「自分の見たものがすべてだ」という態度からうかがわれる通り、手持ちの情報の量や質は主観的な自信とは無関係である。自信を裏付けるのは、筋の通った説明がつくかどうかであり、ほとんど何も見ていなくても、もっともらしい説明ができれば人々は自信たっぷりになる。こうしたわけで、判断に必須の情報が欠けていても、それに気づかない例があとを断たない。まさしく「自分の見たものがすべてだ」と考えてしまう。そのうえ私たちの連想マシンは、一貫性のある活性化パターンをよしとし、疑いや両義性を排除しようとする。

企画提案などの際に、この「自分の見たものがすべて」現象で、こちらの話をまったく受け入れてもらえない時があります。とてもあります。それに苛立ちを覚えるわけですが、人間にはこのような心理が働いていると分かれば、事前・事後にフォローすべき事柄や、「見たもの」から逸脱しない範囲から入っていく道筋など、考え方によっては新たなアプローチも見えてくるかも知れません。

プロのスカウトは伝統的に、選手の体格と外観や目立つ数字(打点、防御率など)から将来性を占ってきた。だが「マネーボール」の主人公であるオークランドアスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンは、スカウトを差し置いて誰もやっていなかった決断を下し、能力を端的に示す過去の実績データに基づいて選手を選ぶ。彼が目をつける選手は、他球団では選ばれないため、割安である。おかげでチームは、少ない予算で素晴らしい成績を上げられるようになった。

各社人事担当の方は肝に命じておくべき例ではないでしょうか。まあ、企業と球団の運営は違いますが。

これは実際の市場でベースボールカードを使って行った調査で、リストは価値の高いカード10枚セットと、同じ10枚にあまり価値のない3枚をプラスした13枚セットをオークションに出した。するとディナーセット実験とまったく同じように、並列評価では13枚セットのほうに高値がついたが、単独評価では値打ちが下がった。

ネットオークションを行わなくても、商品開発やマーケティングにおいて、価値のある調査結果ですね。思えば僕が福袋全般に食指が動かないのも、中身を見せるようになったからではないかと思うわけですが……。

熟練した筏師は何百回も急流を下ったことがあり、逆巻く流れを読み、妨害物を予見する術を知っているし、ほんのわずかの操作で正しい姿勢を保つこつを会得している。これに対して若き創業者は、大企業を設立する方法を学ぶ機会も、水面下の岩(たとえばライバル企業のイノベーション)を避ける方法を知る機会も、はるかに少なかった。勿論、グーグルのストーリーに才能とスキルがあふれていることはまちがいない。だが実際には、語られている以上に運が重要な役割を果たしていたはずである。そして運の役割が大きいほど、学べることは少なくなる。

このことを把握していれば、ある種の無駄なプレッシャーは削ぎ落とされ、必要なことに神経を集中できるのではないでしょうか。何事も、運が大きく作用しているのだ、と思えば、「明らめる」ことができるのでは。

1997年7月、スコットランドの新しい国会議事堂をエジンバラに建設する計画が議会に提出された。総工費は4000万ポンドと見積もられていた。1999年6月には、予算は1億900万ポンドに修正された。2000年4月になると、議会は予算上限を1億9500万ポンドとする法案を可決。2001年11月には議会が「最終予算見積もり」を出すよう要求し、2億4100万ポンドという見積もりが提出された。この見積額は2002年中に二度上方修正され、年度末時点で2億9460万ポンドとなった。しかし2003年に3回にわたって修正され、6月時点で3億7580万ポンドとなる。そして2004年に、ついに新議事堂は落成した。総工費はおよそ4億3100万ポンドに達していた(中略)当初予算の見込み違いは、必ずしも無知に起因するわけではない。非現実的な計画を立てる人たちは、多くの場合、その計画を上司または顧客に是非とも承認させたいと考えている。彼らは、いったん承認された計画は、単に予算不足や納期遅れが起きただけで中止や放棄に至ることは滅多にない、と知っているのだ。このようなケースでは、計画の錯誤を回避する責任は、計画の可否を決める意思決定者にかかってくる。彼らが外部情報の必要性を否定するようだと、計画の錯誤は避けられまい。

なんかどっかで見たような……と東京五輪競技場の例を出すまでもなく、世の中のどこかしこで頻発している現象でしょう。

自信過剰のCEOが発生させる損害は、業界誌で有名人扱いされているCEOの場合ほど大きい。だから、権威ある賞をCEOに進呈するのは、株主の利益を損なう行為と言えよう。マルメンディアらは、「CEOが賞をもらうと、その後その会社は、株価の面でも業績の面でも振るわなくなることがわかった。その一方でCEO本人の報酬は上がるため、CEOは会社以外のことに以前より多くの時間を費やすようになる。たとえば本を書く、他社の社外取締役になる、などだ。また自分の資金運用や資産管理に注ぎ込む時間も増える」と指摘する。

声を出して笑ってしまいそうになるところですね。こんなこと書かれると、ビジネス書の大半は手に取るのも馬鹿馬鹿しく思えてしまうわけですが。

チームがある決定に収束するにつれ、その方向性に対する疑念は次第に表明しにくくなり、しまいにはチームやリーダーに対する忠誠心の欠如とみなされるようになる。とりわけリーダーが、無思慮に自分の意向を明らかにした場合がそうだ。こうして懐疑的な見方が排除されると、集団内に自信過剰が生まれ、その決定の支持者だけが声高に意見を言うようになる。死亡前死因分析のよいところは、懐疑的な見方に正当性を与えることだ。さらに、その決定の支持者にも、それまで見落としていた要因がありうると考えさせる効果がある。死亡前死因分析は万能薬ではないし、予想外の不快な事態を完全に防げるわけでもない。だが少なくとも、「見たものがすべて」という思い込みと無批判の楽観主義というバイアスのかかった計画から、いくらかは損害を減らす役に立つことだろう。

死亡前死因分析、これも是非取り入れたいところ。これこそ導入するにはなかなか高いハードルを越えないといけないと思いますが……(この本をみんなが読んでくれてりゃ話は早いのに)。

行動して生み出された結果に対しては、行動せずに同じ結果になった場合よりも、強い感情反応が生まれるということである。この感情反応の中には後悔も含まれる。このことは、ギャンブルの場合にも確かめられている。人々は、ギャンブルをして勝ったときのほうが、ギャンブルをせずに同額のお金を獲得したときよりうれしいのである。この非対称性は、損をする場合にも少なくとも同程度には現れるし、後悔と非難にも当てはまる。じつはここで重要なのは、行動するかしないかのちがいではない。デフォルト(既定)の選択肢と、デフォルトから剥離した行動とのちがいである。デフォルトから離れると、デフォルトが容易にイメージされる。そこでデフォルトから離れた行動をとって悪い結果が出た場合には、ひどく苦痛を味わうことになる。たとえば株を持っているときのデフォルト選択は売らないことであり、朝同僚に出会ったときのデフォルト選択は挨拶することである。株を売ったり、朝同僚をむししたりするのは、どちらもデフォルトからの剥離であり、後悔や非難の対象になりうる。

やらずに後悔するより、やって後悔するほうが良い、みたいなこと言う人がいますが、ほらやっぱそんなことないって。
問題は、「後悔」の評価ですね。後悔すべきかすべきでないか。何かを成し遂げたいなら、後悔も必要ということでしょう。

エイモスと私は、問題の提示の仕方が考えや選好に不合理な影響をおよぼす現象にフレーミング効果と名付けた。たとえば、次の例を考えてみてほしい。

10%の確率で95ドルもらえるが、90%の確率で5ドル失うギャンブルをやる気がありますか?
10%の確率で100ドルもらえるが、90%の確率で何ももらえないくじの券を5ドルで買う気はありますか?

まずはじっくり考えて、二つの問題がまったく同じであることをよく納得してほしい。どちらの場合も、いい目が出れば95ドル得をし、悪い目が出れば5ドル損をすることになる。したがってあくまで客観的事実に依拠するエコンならば、どちらにもイエスと答えるか、どちらにもノーと答えるだろう。だがそういう人はめったにいない。実際には、2番目にだけイエスと答える人が圧倒的に多い。これは、外れたくじ券に払ったのは費用だと考えるため、ギャンブルの負けよりはるかに受け入れやすいからである。これはとりたてて驚くには当たるまい。損失という言葉は、費用という言葉より、ずっと強い嫌悪感をかき立てる。こうしたわけで、客観的事実に基づかない選択が行われる。これは、背後にいるシステム1が事実にあまりこだわらないからである。

マーケティングですね。この辺りの人間心理の特性はしっかりと把握しておきたいところです。

その他、政治的な心理操作や企業運営に関する大きな話、人間の「非論理的だけど納得せざるを得ない」心理現象などがまだまだたくさん掲載されているので、少なくとも現時点では多くの気付きや発見が目白押しの本だと思います。

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