ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団「マタイ受難曲」 at 兵庫県立芸術文化センター (Hyogo)

この日は、兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールで行われた、ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によるJ.S.バッハ「マタイ受難曲」の演奏会に行って来ました。

matthaus-passion

会場の兵庫県立芸術文化センターに行くのはこの日が初めて。阪急神戸線の西宮北口駅で降りると、そのまま屋根のある通路で会場までつながっているのでとても便利。その道すがら、飲食店に混じって音楽関係の雑貨屋さんがあったので覗いてみたんですが、いわゆるクラシック音楽にまつわるものが所狭しと沢山並んでいて、その殆どが、年配の方向けといったデザインのものばかりでがっかり。会場内にあった小さなグッズショップもそうでしたし、思い出してみればいずみホールにも同じような店があって、やはり若い人には食指の延びなさそうなものばかりが並んでいた気がします。中年(40歳)の僕ががっかりするぐらいなので、本当に若い人からすればとんでもないんじゃないかという気がします。来場者の若返りを目指すなら、こういうものももうちょっとよく考えないと、リピーターにはなり得ないんじゃないでしょうか。

ともあれ、久し振りのコンサート、しかも演目はバッハ屈指の傑作にして大作。気合いを入れて会場へ向かいました。

ロビーでプログラムを購入(1,000円で鈴木雅明&優人父子のインタビューやマタイの歌詞なども掲載)。お客さんの様子を眺めてみると、親子連れで来られている10代の女性や僕よりも若いか少し上という世代の方も散見され、普段より年齢層の偏りは少なく感じました。黒夢のTシャツを着た20代〜30代と思しき男性も見かけました。

座席は、前から8列目、中央よりやや下手寄り。もう少し後ろでも良かったかな、というぐらいの距離感。合唱団と楽団が入場すると、楽団の最後列は楽器が完全に隠れていました。

演奏が始まると、レコードなどで聴き慣れている至近距離で響いているような音圧が無い、ふわっと柔らかく広がるような合奏と合唱。このホールの音響はあまり良くないような噂を聞いてましたが、座席が良かったのか、特に不満を感じることはありませんでした。逆に、ホールの魅力を感じる、ということもあまりなかったですが。

この日、福音史家を務めるはずのテノールが体調不良で欠席、別の方が福音史家とソロ・テノールを兼任していましたが、この方が実に素晴らしかったです。福音史家は受難曲の中で最も出番が多く、イエス受難の世界を言葉でリアルに創造する最重要ポジションですが、悲哀や怒り、激情を真に迫る声と表情で見事に表現し切っていて、その迫力は、正に今キリストが裏切られ、疎まれ、息を引き取ったかのようなリアリティが漲っていました。特に、イエスを裏切り、鶏の鳴き声を聞いて泣き崩れたペテロを語るくだりの深い哀しみと、ユダが自殺するくだりでの吐き捨てるような歌唱とのコントラストには痺れました。

ピラトを担当したバスも、他の登場人物やアリアと比べて、ピラトのシーンになると威厳が深まり、太く迫力のある、惚れ惚れするような男らしさ漂う人物像が浮かび上がってきていて、声の力と、表現力の奥深さに驚くばかり。

その他、イエス役のバス、アルト、ソプラノも素晴らしかったですが、特にアルトのエモーショナルなアリアに心奪われました。

そもそもマタイを生で聴いたのが初めてで、レチタティーヴォでの台詞の割り振りも合唱や楽器が2組に分かれて配置されることもよく理解していませんでしたが、舞台では脇役などの台詞を合唱団の中の一人が担当したり(少年であること、客席から遠いこともあって、フラットで小さな声で響いていることが、全体から見て立体的な表現に感じました)、左右の楽団が交互に演奏し、コラールや合唱の際には合わせて演奏するといった構成も、レコードなどで聴いている時にはピンと来ませんでしたが、実際に見るとその立体的な演出が3時間の中にバッハの様々な音楽技法やコラールを構築するための手法なのだろうということが暗に伝わってきます。実際は、バッハが譜面に込めた、修辞学的なメッセージを読み解いておけばさらに深く楽しめたと思うんですが、この日はその部分をじっくり勉強している時間がなかったので、また次の機会のお楽しみにしておこうと思います。

第1部は70分。前日までの疲れが噴出して、ついうとうとしてしまい、はっと気がついたらゲッセマネでイエスが苦悩している時に弟子たちは眠っていた、というくだりだったので、思わずドキッとしました。

20分の休憩の後、後半第2部へ。後半の方が長く、95分もあるんですが、捕らえられたイエスが不当な裁きを受け、民衆は狂ったように騒ぎ、ペテロの否認、ユダの自殺、イエスの死……と緊迫を増しながらクライマックスへ向かう怒濤の展開に「ついうとうと」している暇もありません。

それでも、アリアは長調で歌われ、しかしやはり悲哀に満ちている、ということも改めて感じ入りました。それは、アルトの女性が哀しみを湛えたような笑顔で歌っているのを見て、その表現の複雑さに気づかされた、というところもありました。

バッハが受難曲を初演した伝統ある合唱団と、バッハと同時代に結成された楽団による演奏には、バッハが血肉化されたような安定感があり、ソリストたちには、受難の物語の語り部としてのエモーションと説得力が溢れ返る程に備わっていて、演奏中に何度も鳥肌が立ち、最後には深く深呼吸をして延々とただ拍手を送り続ける充実感に浸る、ひたすら音楽の力、生音の力に感動させられた3時間でした。

Arthaus¥ 2,890

(2016年03月15日現在)

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