卒業するように解散したインストバンド・SAKEROCK

SAKEROCKのラストアルバム「SAYONARA」を購入。アナログで。CDでリリースした際には既にSAKEROCKへの興味が途切れてしまっていたので気に留めてなかったんですが、アナログリリース数日前に何となく“SAYONARA”のPVを観て、慌てて予約注文。

SAKEROCKを初めて観た(真夏のビーチで降り注ぐ太陽のもと“エイト・メロディーズ”を聴いた)日から約10年。何の予備知識も無く観た彼らはまだハマケンがひとりでMCをしていて、エキセントリックで尖ってるけどグッドメロディな彼らのパフォーマンスにすっかり魅了されました。

その数ヶ月後に「songs of instrumental」がリリースされてて、同じくらいのタイミングで「ぐうぜんのきろく」が再販されたんじゃなかったかな。アルバムも夢中になって聴いたし、DVDの中で子供のようにはしゃぎ回るやんちゃなメンバーたちの様子にも随分笑わされました。

「ぐうぜんのきろく2」「ラディカルホリデー その0」と、バンドの遊び心が全開になっていく中で「ホニャララ」のリリース。ツアーも神戸京都名古屋と三都市追いかけ、最も思い入れの強いアルバムでもあり、多分、最高傑作なんじゃないかな、と思います。それまでのアルバムって結構尻すぼみになったりハマケンのキャラ押しで起こる音楽的なアンバランスさが強過ぎて、作品として通して聴くには違和感があったり冗長だったりしていたんですが、「ホニャララ」ではそれまでの上り調子の勢いそのままに最後まで疾走していて、SAKEROCKの魅力が最大限発揮された一枚になっていると思います。

「ラディカルホリデー その1」「ぐうぜんのきろく3」と映像作品も濃密な内容でリリースされるも、その後バンドは一息つき、メンバーがそれぞれ別行動を取り始めると、SAKEROCKという存在の必然性が揺らぎ始めました。いや、僕だけがそう思っていただけかも知れません。でも、次作「MUDA」を聴いて、4人が並ぶモノクロ写真を見た時に「すわラストアルバムか」と感じたのは僕だけではないはずです。

そもそもこの「MUDA」というアルバムが、タイトルと裏腹に、これまであらゆる形で「無駄」なものをちりばめてきたSAKEROCKらしからぬ、無駄のほとんどないシンプルなアルバムで、聴いた印象は「地味」。そして「これやっちゃったらもう後が無いんじゃないの」感。これはDCPRG「FRANZ KAFUKA’S AMERICA」を聴いた時の印象とほぼ同じ(今後、同じようなアルバムを作るしかないという完成度)ですが、SAKEROCKの場合はもうちょっと悪い印象でした。というのは、僕はSAKEROCKというバンドの魅力を演奏だけで捉えていなかったわけで、ここまでソリッドに演奏だけにフォーカスされると、最早輝きを失っているようにさえ見えてしまうのです。「ぐうぜんのきろく」に映っていた「子供のようにはしゃぎ回るやんちゃな」バンドこそが、あの、青春そのものといったようなフレッシュさが、僕にとってのSAKEROCKでした。この変化は「MUDA」で突如起こったわけではなく、バンドが意識的に演奏へとよりフォーカスが行く変化を続けていたわけですが、それによって徐々に「少年性」を失ってしまいました。つまり、大人になってしまったんです。

リリースツアーでのライブはそんな不安を一蹴する素晴らしさでしたが、田中馨が脱退するという形でSAKEROCKは終わりへの道を歩み始めました。

SAKEROCKが本当に解散するのを待たず、僕の中でのSAKEROCKの興味は既に切れてしまいました。田中馨脱退後、イベントのみで豪華ゲストを迎えて演奏していることを小耳に挟んでも、地に足の着いていない印象は拭えず、ベスト盤もPVで観た“Emerald Music”は素晴らしいものの、リリースされたタイミング含めて何となく腑に落ちないところもあり、購入するには至らず。何よりもその間、各メンバーが個々に十分過ぎる活躍をし続けている中、後は延々と放置するか「解散宣言」をするかいずれかの選択しかなかったように思います。

ですので、解散が発表された時も「やっと決心したんだね」と思うだけで、改めて脱退メンバー含めた5人が集まって最後のアルバムを出し、ラストライブをネット配信すると聴かされても食指が動きませんでした。

ということで冒頭に戻りますが、針を落とし、A面/B面通して聴いてみると、思っていた以上に良かったです。きっと「MUDA」の延長のような内容だろうな、という予測は当たっていましたが、野村卓史がいることによるものか、より鮮やかさ、艶やかさが感じられます。しかし、「ホニャララ」と比べるとほぼ同じ編成ながら「SAYONARA」はあまりにも真面目なアルバムです。5人が笑顔で並ぶジャケット写真も、無邪気にはしゃいだ笑いではなく、落ち着き払った大人の笑い方です。もう冗談言ったりぐだぐだ無駄話するような、学校の放課後のような空気は微塵もありません。何故なら彼らはもう、「卒業」するからです。

僕はSAKEROCKの音楽は、普遍的なその性質から、彼らが年を重ねていけばいくほど魅力と艶を増し、枯れた味わいを見せながらどんどん面白くなっていくものだと思っていたんですが、それは誤解で、SAKEROCKの音楽は、彼らが若く、無邪気だったからこそ出来た音楽だったんじゃないかと今では思います。大人になっても無邪気に出来る人は出来るし、電気グルーヴのような続け方もあり得たのかも知れませんが、電気グルーヴがそのやんちゃぶりをバンド外では抑えているのと反対に、SAKEROCKはバンド外でやりたい放題やっている、という点が、続けられたか否かの境界線かも知れません(現に2001年からの活動休止の前に石野卓球は、いい歳して初期電気のような歌詞は恥ずかしくて歌えないという発言もしています)。

とは言え、やはり彼らがまた更に経験を積んで数年〜数十年後、飄々と、それこそ同窓会のような気分で集まって、深みを増した滋味深い演奏を聴かせてくれる予感が、溢れ出しそうなほどあるんですが、それは最早予感ではなく確信です。

その日まで、ありがとう、さようなら。

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(2015年07月15日現在)5つ星のうち4.7

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