Asian Meeting Festival 2015 at ゲーテ・インスティトゥート ヴィラ鴨川 (Kyoto)

この日はゲーテ・インスティトゥート ヴィラ鴨川で行われたAsian Meeting Festival 2015に行って来ました。

Asian Meeting Festival 2015開演前風景

会場は、京阪出町柳駅と神宮丸太町駅のほぼ中間、鴨川沿いにある施設で、ドイツとの文化交流を目的としたアートスペースのようです。木を基調とした建物は洗練されたムードが漂っています。

演奏の舞台は、100〜200人ぐらいが入りそうなスペースの周囲に各出演者の機材が内向きに設置され、それらに囲まれるようにお客さんが座るという感じ。その機材の円の外にもスペースや椅子があり、満員の会場内は所狭しと人がひしめき合っていました。お客さんは、どこに座って、どこを向いてもいいという、”聴こえるべき音”という正解が無い、面白くも悩ましい設定。結局無難に、機材の円のほぼ中央に陣取ることにしました。そこから見渡すと、正面がイマン・ジムボット、時計回りに米子匡司ルオン・フエ・チンレスリー・ロウSachiko Mグエン・ホン・ヤンYPYビン・イドリスユエン・チーワイ大友良英コック・シューワイdj sniffユイ=サオワコーン・ムアンクルアントゥ・ダイという並びになっていました。

大友氏による前説(主に、この日のイベントの中核を成すプロジェクト「ENSEMBLES ASIA」についての解説)の後、ゆっくりと照明が落とされると、約1時間半の集団即興演奏がスタート。総勢14名のアーティストの中から、初めはグエン・ホン・ヤンによるラップトップを使用した電子ノイズから始まり、トゥ・ダイのハードコアなスタイルのノイズ、YPYこと日野浩志郎がカセットMTRを使って生み出すファニーな電子ビートが重なり、初っ端から爆音が会場を埋め尽くします。

驚いたのは音響の良さ。各演奏者ごとにPAモニターが配置され、それぞれ独立したチャンネルから音を出していたんですが、それぞれの音がものすごくクリアで、それでいてシャープでしかも力強い。会場内は無駄なリヴァーブ感が全くなく、それでいてデッド過ぎる圧迫感もない絶妙なバランス。音が耳の間近で鳴っているような生々しさと、演奏者の位置が目を閉じても明確に判別できるマルチチャンネル具合が、まるでハイクオリティなオーディオソースを聴いているようで素晴らしかったです。

演奏は、それぞれのプレイヤーが手許の小さな照明を灯して参加し、演奏をやめると照明を消す、というルールで、メンバーが一人また一人と演奏を始め、ちょうど“音によるメンバー紹介”のような体を成していました。

演奏者が一巡すると、真っ暗だった会場内の照明を少し明るくし、ユイ=サオワコーン・ムアンクルアンによる優美なチェロの音もSachiko Mのサイン波もコック・シューワイによるボイス・パフォーマンスも全て並列ですが、そこはやはり自分の音が引き立つタイミング、相手の音が活きるタイミングを計って出所を探っているようで、アジア各国の、言語もバックグラウンドも違う人たちが“音”だけを頼りに間合いを取っているようなスリルがありました(大友氏とSachiko Mの二人だけになる瞬間も)。

プレイヤーが現れては消え、その度に手駒を使い分けながら、入れ替わり立ち替わり様々な組み合わせでインタープレイが繰り広げられますが、全体的に、大友氏やdj sniff含むプロジェクトの中核メンバーは若干抑え気味で、奨励された奏者たちが、それでも慎重に様子を伺いながら自身の音を発しているという雰囲気。激しく噛み合ったり火花散るような鍔迫り合いが起こったりするようなことも無く、互いに尊重し合うように丁寧に音が積み重ねられていきます。

最後は、この日のメンバーの中でも数少ない、音韻を感じさせるギター演奏で異彩を放っていたビン・イドリスのギターの音を残すように全員が徐々にフェードアウトしていき、ハイドンの「告別」よろしく(舞台から立ち去りはしませんでしたが)各々照明を消してゆき、静かに幕を閉じました。

演奏時間は7〜80分。半分ぐらいの時間にしか感じなかったのは、前半からの構成や演出が巧みだったからでしょうか。

イマン・ ジムボットが鳴らす伝統楽器の音だけが、いわゆる“アジア的”なムードを見せていましたが、それ以外は特に地域を彷彿とさせるような響きがあるわけではなく、会場内を交差しながら共鳴する音は殆ど無国籍に聴こえていましたが、もしかするとそれも、世界中のエクスペリメンタルな音楽を聴いているような人からすると“アジア的”な何かを嗅ぎ取れるものなのかも知れません(僕が大友氏の突き刺さるようなギターの音や日野氏のノイズに“らしさ”を感じるように)。全体的に抑制の利いた、ノイジーな中にも優しさや温かみ、人柄の良さのようなものが垣間見られたのは、もしかすると汎アジア的なのでしょうか。よく分かりませんが。

そんなことや、そもそも来場者も出演者も含め、この日の演奏者の全容を把握している人がいないという特殊な環境、その謎や未知の存在が点在するがままに眼前に提示されているような状況も、これから2020年まで続くというこのプロジェクトの今後を追っていると、徐々に何らかの像が結ばれていくのかも知れません。この日の刺激的なセッションは、そんなこれからのための壮大なイントロダクションなのではないかとも思いました。

観終わった後、あの人とこの人だけでのセッションや、あの三人での即興も観てみたい……などと来場者に無限の妄想を繰り広げさせてしまうのも、きっと演出のひとつだったのでしょうね。

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