坂田明「平家物語」 at 茨木市市民総合センター (Osaka)

この日は茨木市市民総合センターに、坂田明「平家物語」を観に行きました。

坂田明「平家物語」 at 茨木市市民総合センター

会場となった施設は、多少の年期を感じさせる質素なところでしたが、手入れも行き届き、スタッフの方も含めホスピタリティが高く、とても好感の持てる雰囲気でした。

ホ―ル入り口横が小さなギャラリーになっていて、ご年配の方が飾られた作品を眺めてらっしゃいましたが、この日の会場の客層も、大体そんな感じでした。

「祇園精舎の鐘の声」と言えば学校の授業で覚えたお馴染みのフレーズですが、実際に「平家物語」を読んだことも、舞台や映画で触れたことも殆どなく、坂田氏の作品も聴かないままだったので、会場入り口で配布された演目解説を読み込んで開演に備えました。

演目は、CDDVDに収録されたものと同じですが、前者は坂田氏の一人多重録音、後者はジム・オルーク、山本達久も加えた5人編成での演奏ですが、この日は田中悠美子、石井千鶴を従えての、ライブ向けとしては最小編成でのパフォーマンスでした。

弦をバチで擦り、グリッサンドで上下させ、抽象的な音を響かせる田中氏と、慎重に、静かに小鼓を鳴らす石井氏に挟まれて、中央で喉を押しつぶしたダミ声で絞り出すように歌う坂田氏。合間に小さい鐘や膝の辺りにぶら下げられた50センチ四方程度の銅鑼の音を加えつつ、歌い終えてサックスを手にすると朗々とブロウするんですが、それまでの和楽器の曖昧な響きと坂田氏の(これまた日本的とも言える)歪んだ声から分離するように、ジャズ式の調性で明瞭に響き渡り、一瞬強烈な違和感を覚えるんですが、次第に平家の物悲しさをリアルに表現しているように聴こえてくるのですから不思議なものです。

ホールは無駄な残響音を一切感じず、PAを通していながら不自然な分離や歪みを感じさせない、ホ―ル環境もスピーカーの存在も消えてしまい、聴き手と自然に絡み合うような絶妙な音響で、途中休憩を挟みながらも、演奏の世界へと深く入り込むような恍惚とした感覚が味わえました。

前半ラストの“坂落”、そして後半最初の“組討の段”では田中氏による、突き抜けた明瞭さと節回しの素晴らしい語りも聴けました。まるで……と思い後になって調べてみたら、この方、Ground-Zero「plays standards」に参加されてたんですね。“あの”声の人だったのか、と後になって感激してしまいました。

その“坂落”では、田中氏が語る横で相づちを打つように、口と動きでかの有名な一ノ谷での断崖絶壁からの奇襲の様子を再現する坂田氏。喉仏を叩きながら馬の声を出したり刀で切られるシーンをチャンバラごっこをする子供のように吠えながら身振り手振りで激しく表現する姿は、基本的にシリアスな本編の中で唯一コミカルなパートでした。

“木曾最期”では、琴(だと思いますが、手元が見えなかったので、弦楽器ということ以外は不明)とサックスがフリーキーに疾走するインプロヴィゼーション。お家芸たる坂田氏は勿論のこと、即興演奏界でも活躍する(ということも後で知ったのですが)田中氏も澱みなく不協和音を刻んでいました。

ラストの“先帝御入水”では、冒頭とラストでバリトン・サックスによるドローンサウンドが現代的な響きを聴かせ、語りは、物語の悲哀を、声の緩急で巧みに表現してみせ、海の底へと沈み込んでいくラストのムードを、悲しくも幻想的に描いていました。

休憩含めて約90分で本編は終了。「平家物語を録る」と決めてから平家物語を買いに行って……といったような笑えるエピソードを織り交ぜたMCでほっこりした後、アンコール曲として“音戸の舟唄”を演奏。それまでの絞り出すようなダミ声ではなく、太く伸びやかなテノールで朗々と歌い上げます。その素晴らしさにただただ圧倒され、感嘆の気持ちで胸の中が埋め尽くされて朦朧としたまま、ステージを去るメンバーたちに拍手を送り続けていました。

久々に、数日は後を引くような強烈な体験が出来た気がします。

後方座席にいらした3人組のご夫人たち(開演前にはペットの毛並みについて語り合っておられました)が休憩中や終演後に「サックスの音が綺麗ねぇ」「あの三味線は邪道よ」「型破りな平家物語だわ」「民謡もこうやって歌う人が歌うといいものなのよ」などなど色々話されていて思わず聴き入ってしまいましたが、「ほら、見た目が木こりみたいなジャズミュージシャンいるじゃない、日本人の。有名な。あの人なんて名前だったかしら……」という話が結論の出ないままだったので未だに気になっています。

坂田明『平家物語』実況録音 映像篇 [DVD]
坂田明『平家物語』実況録音 映像篇 [DVD]
doubtmusic 2013-01-12
売り上げランキング : 86721
Amazonで詳しく見る by G-Tools
Pocket

Leave a Reply

XHTML: You can use these tags: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>