JOHN ZORN’S COBRA 関西作戦 at MOERADO (Osaka)

この日はMOERADOで開催された「JOHN ZORN’S COBRA 関西作戦」を観に行ってきました。

JOHN ZORN'S COBRAステージ

MOERADOは初めて来ましたが、梅田と南森町の中間辺りに位置し、アクセスも便利、ハコも綺麗でフロアも広々した快適な空間でした。音響面は、この日の演奏形態が特殊だったこと、最前列で観ていたことなどあってあまり判断し切れず、でしたが悪くはなさそう。

客席の年齢層は結構高め。フロアには椅子が並べられていましたが、埋まり具合は6割と言ったところでしょうか。若い方はあまり関心がないのかしら……。

JOHN ZORN’S COBRAが関西で行われるのは15年振りとのこと。僕はCOBRAについては文字情報などで見聞してはいたものの、実際に観るのは初めて。この日の出演者の大半もCOBRAに参加するのは初めてだったようです。

出演者は以下の通り。

JOHN ZORN'S COBRA出演者リスト

この日の出演者の中で数少ないCOBRA経験者だった須原氏は急病で欠席。即興ながらもルールが特殊なため、メンバーを補填するにも経験者でなければ難しかったようで、上手くスケジュールの合う経験者はおらず、ひとり欠けたまま上演されることになった模様です。当日参加のメンバーも、事前リハーサルが必須ということで、当日以外のリハ日も押さえられる演者に限られたようで、ブッキングにも大変な苦労があったのではないかと思います。

上記パノラマ写真の通り、ステージには弧を描くように楽器が並べられ、ギター(磯端氏)とチューバ(河村氏)がフロアにはみ出す形でセットされ、その手前に置かれた長テーブルには、プロンプターが演者に指示を出すための厚紙製のカードが並べられています。無造作に置かれているように見える帽子も道具のひとつ。

カードには記号(僕の目に見えたのはアルファベットでしたが、それに限ったものではなさそう)が書かれており、それぞれが「ひとりずつ順番に音を出す」「二人で演奏する」「音量を変える」というようなルールが割り振られているようで、カードの指示に合わせて演者は即興演奏を行います。演者は演奏中手元の譜面台に置いたルールの対応表を見ているようで、即興でありながら、指示が出るたびに譜面台に目を走らせていました。

プロンプターはセンターに立ち、演者に向かって指示を出しているので指揮者のように見えますが、プロンプターの名の通り演者に演奏のきっかけとなる合図を送るのが主な役割のようで、あくまでもミュージシャンたちが演奏を進めていき、ステージ上から各々プロンプターに対して次のルールの提示を要求します。要求は、頭、耳、口、鼻などに指の本数を重ねてプロンプターにハンドサインを送り、プロンプターはカードの裏面に書かれている「Head 3」などのサイン対応の記載を確認して指示を出していました。

基本的にはカードでの指示から逸脱したプレイは出来ません(とは言ってもコードやスケール、奏法についての具体的な指示は無いようで、主に“時間”を制御されているようでした)が、演者が指示も含めて主導権を握ることも出来、その場合演者は緑のヘアバンドを頭にはめ、プロンプターはテーブル上の帽子を被り、主導権が移っていることを示します。

……といった辺りが、僕が観ながらなんとなく「そうかしら」と思ったCOBRAのルールで、特に演奏開始から30分ぐらいはそういう指示や掛け合いの意味を読み解きながら観ている感じでした。その間は楽しめないかというと決してそういうわけではなく、舞台から伝わってくる、緊縛的なルールの中でやりとりをしている雰囲気は十分伝わってきますし、他にも、演者の俯瞰図にサインペンで印をつけていたり、ルールそのものがはっきり分かりづらいところなど、最後までよく分からなかったようなところもありましたが、特に観て楽しむ上では支障のなさそうなものでした。

ルールの切り替えは秒単位で起こり、プロンプターは演者を見渡しながら休む間もなく頻繁にカードを指し示します。指示の中には次の演者を演奏中の演者が指差しや目配せで出すものもあり、演者もプロンプター、譜面、他の演者へ終始意識を向けていなければならず、正に息つく暇もないという感じでした。

次に出す音に迷っていると演奏が止まってしまう危険もあるし、性質上、一気呵成に演奏するというシーンがあまりないので演者各人の器楽音が露になり、即興の反応速度と技術が問われるシビアさがある(演奏中、サインの誤読や微妙な齟齬が何度か起こっていて、それがまた面白い展開を生み出したりしていましたが、それらも集団即興の中で瞬発力で対応できるのも、やはりプロ集団なればこそでしょう)一方で、観ている側としては一瞬一瞬で演者の個性が濃厚に出てくるので、実に聴き応えがあります。特に樋野氏の演奏は、ソウルフラワー(ユニオンモノノケ)やズボンズなど、爆音のロックや即興要素の少ない演奏でしか聴く機会が無かったので、今回ソプラノのブロウをじっくりと堪能できたのは収穫でした。

個性の表出は、音だけではなくプロンプターにハンドサインを出す頻度、ヘアバンドを頭にはめる頻度からも見えてくるのがまた面白く、性格的にもキャラクター的にも前に出てくる瀬戸氏が積極的に進行を引っ張り、それを横目にガハハと笑いながら状況を楽しんでるのが井崎氏、クールにフライングVをつま弾きながら、焚き付けられるとここぞとばかりにエキセントリックに弾けるキララ氏、河村氏は前半でじっくり様子を見てから、後半で「いっちょやったるか」と完全に全体の主導権を握って曲を作り上げようとする……など、まるで各演者のパーソナリティも見えてくるようなルールだなぁ、と思いました。

傑作だったのは本編ラストで、瀬戸氏がヒョコヒョコと音のするおもちゃを鳴らし始めると、池田氏も似たようなおもちゃ楽器で加勢し、キララ氏がそれを口三味線で歌いながらクネクネ踊り始めると、この日最年少のヨース毛氏が主導権を握り、演者全員に同じことをやらせてエエジャナイカ状態になり、それを息が上がるまで延々やらせてゲラゲラ笑って見てる、というやんちゃぶり。がんせき氏も言ってましたが、この展開は関西ならではという感じがありましたね。

一応「曲」という単位で区切られていて、終わらせたいタイミングで終了のカードを出すことで曲が終わるようです。しかし、通常の即興演奏以上に「曲」としての感覚は薄く、曲を聴くと言うより、パーティーゲーム(椅子取りゲーム、王様ゲーム、せんだみつおゲームetc.)の様子を見ているような感じでした。

よくある一般的な即興だと、ある程度掛け合いの中で曲を構築していくことが多いですが、展開が操作しづらく(それを操作しようとして河村氏はちょっと失敗していたようでしたが)、操作しようとするとこのゲームの面白さも薄れてしまうところもあり、あらかじめ構築に向かわない構造になっているように思えました。ただ、プロンプターのありようもやり手によって違っていそうですし、演者同士の綱引きや楽器の違いによっては全く違う傾向のものになるのかも知れません。

他の様々な即興演奏とも違う、曲のようで曲でない曲、それでいて終始飽きが来ず、緊張感があるようで観ていて肩が凝らない、しかし一朝一夕で真似の出来ない、楽器を使った高度なエンターテインメント。これを機に関西作戦も活発化させて、須原氏を交えてまた再戦してほしいですね。

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