高尾小フェス 2013 at 南山城村 (Kyoto)

この日は「高尾小フェス 2013」に行って来ました。

高尾小フェスは、京都の南端にある南山城村の廃校・高尾小学校を中心に行われるイベント。京都と言っても奈良と三重の間に挟まったようなところでしかも山奥なので、僕のように大阪に近い側の京都に住んでいなくてもすごく遠いです。

ローカル線を乗り継ぎながら、1時間30分ほどかけて会場近辺の駅へ。最後にはICカードも使えないワンマン車両になり、コンビニの類いも駅周辺に見当たらないようなのどかな風景が広がります。

駅より会場までの送迎バスに乗り換え、山道を登っていきます。蛇行しながらぐるぐると回るようにバスは進みながら、カーブに来るたびにクラクションを短く鳴らしていました。交通量が少ない道で、接触事故が起こらないようにする配慮でしょうか。

会場となる学校前に着くと、間もなく開場。この後、地元の和太鼓グループによる演奏がありましたが、本当はバスの到着とほぼ同時に演奏を始める予定だったものの、段取りが遅れていた様子。

とりあえずもうお昼だったので、森林食堂のカレーをいただきました。美味しかったですが、食器がプラスチックの使い捨てだったのが残念。こんな事も分からない、もしくは解決できないうちは原発無くなりません。

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カレーを食している間に和太鼓の演奏が始まり、イベントも開演……となりますが、特に何も起こらず、スタッフによる案内なども無し。校内放送のように自前ラジオのようなこともやっていましたが、ただ好きに喋っているだけという感じ。

学校内はアーティストの作品展示などもあり、体育館でのライブ演奏は夕方からのようでずっとリハーサル中(リハーサルでのGofishが素晴らしかった。照明の点いていない、外からの光だけの体育館内のノスタルジックな空気感と外の賑やかさと隔絶した穏やかなムードと、リラックスして響くメンバーの演奏が相俟って溜まらない心地良さでした)。展示や演奏は学校の外でも行われているので少し出歩いてみると、まだ準備中。

色々見て回っているうちに、徐々に「特に何も起こらない」ことが分かり始めます。何せ、タイムテーブルらしきものはあるんですが、時間が書かれておらず、「昼」「夕方」「夜」ぐらいの分け方で、後は誰がどの順番で出るかが若干分かる程度。「タイムテーブルとにらめっこしながらこの日のスケジュールを考える」というフェスっぽいことは成立しません。

どうやらこれは自分で勝手に遊んだ方が良さそうだ。と気持ちを切り換え、どのライブも、上手く遭遇できたらいいなぐらいで捉えることにし、適当に周囲を散策することにしました。

会場入り口で渡された大雑把きわまりない地図を頼りに、他の会場がある古い民家のギャラリーや工場跡へ向かって歩いてみることに。学校裏の倉庫には、車をダンボールでデコレーションした作品がありました。

地図で見るとそれほど離れた場所でも無さそうだったので軽い気持ちで向かいましたが、歩いてみるとどこも殆ど坂道。それも45度はあるような急勾配が続き、猛烈な日差しの強さも手伝って体力と水分を急激に奪われました。加えて、このイベント自体のお客さんもあまり多くなかったので、山道で人に会うことも少なく、標識も信号も無い(たまに学校外会場の位置を示す手作りの小さい看板はありましたが)知らない道を歩いていると、本当に迷子になるんじゃないか、そして、ここで迷子になったら本当にやばいんじゃないかという恐怖もうっすらとよぎりました。

しかし坂を登り切り、会場付近まで辿り着くと、そこは一面茶畑が広がる緑の丘。

右を向いても左を向いても、前も後ろも全て茶畑。青空の下に広がる鮮やかな緑はとても美しく、暑さと疲労でもうろうとしながらも(むしろその苦労があったからこそかも知れませんが)その景色に感動していました。

疲れもあって一旦学校へ戻り、校内の音楽室に行くと、演奏がちょうど終わりかけでした。少し休んでから、またあの茶畑に行きたくなって今度は違う経路で向かってみます。

すると先ほどの道と比べて息が上がるほどの強烈な坂道は少なく、最初からこっちから行ってりゃ良かったのか……と気づくも後の祭り。

道すがら、トロンボーンの音がどこからか聴こえてきましたが、山の中なのでどこから聴こえてくるのかはさっぱり分からず。歩いている途中で、路にトロンボーンが置いてあったので、どうやらここ辺りで演奏していたんだろうという察しはつきました。

お茶の工場だった施設の跡地に通りかかると、何やら音がしたので入ってみるとちょうど演奏中。真っ暗な部屋の中に様々な色に塗られた木の枝が大量にぶら下げられ、天井のブラックライトに照らされてまるで枝自体が発光しているような不可思議な、それでいて美しい空間になっていました。これも作品のようです

外と比べて若干涼しいのと、疲れと、山崎昭典・中川裕貴によるドローンサウンドが相俟って軽くうとうとしながら聴いて、演奏終了後外に出てみると、ダダリズムがそろそろ始まる旨を伝えるスタッフがいたので、そのまま次の会場へ。

古い民家をそのままギャラリーにしてしまったようなAIR南山城村では、各部屋で作品が展示されていて、土間にダダリズムのドラムセットが置いてありました。

土間の中央に約二人分のドラムセットを置いているので、お客さんはそれを取り囲むようにして聴くんですが、当然普通の土間ですからとても近い距離から聴くことになります。複数の打楽器の音を二人で繊細に編み上げて作られた曲を、正確無比に再現するその一挙手一投足をつぶさに見ながら聴くことが出来るという贅沢。眼前で見ていても人間の手によるものだと信じられないほど複雑なスティックさばきに舌を巻きながら、創造的で知的で肉体的なダンスミュージックにしばし聴き惚れていました。

その後工場跡に戻ると、貝つぶ・musika-ntによるギターと電子音のデュオ。日差しを遮り、ブラックライトの幻想的な明かりで包まれた暗い室内に響くアンビエントな演奏はうっとりするほどに素晴らしく、今いる場所が一体どこなのか分からなくなるようなトリップ感がありました。この日聴いた演奏の中では一番良かったな。

そろそろ夕刻にさしかかり、学校へ戻ろうと来た道を引き返していると、道の途中でスタッフがお茶を配っていました。こういう「近所のおばちゃん」的なケアは自然体な感じがしていいですね。

校内の音楽室に行ってみると、また演奏が終わりかけでした。こうして沢山見逃した中で、AIR南山城村唯一のライブアクトだったダダリズムが観られたのは奇跡のような気がします。

体育館で休んで疲れを取りつつ、ここからは夜の演奏会。しかし、音楽以外の、山の景色や空気、場所と溶け合ったインスタレーションや音楽にすっかり満足してしまっていたので、体育館という、それなりに仕切られた空間での演奏にはあまり気持ちがいかず、くつろぎながらまったりと耳を傾けていました。

その中でも面白かったのはもぐらが一周するまで。パーカッションに乗せて、官能的で浮遊感漂うギターフレーズをどこまでも紡ぎ続ける様はマニュエル・ゲッチングのよう。体育館のリバーブ感と、同時に行ったライブ・ペインティングの即興性との相性も良く、内容的にも音響的にもとても心地良い時間でした。

その後に続いたswimmは逆にその体育館のリバーブに飲み込まれる感じがあったので、グラウンドに出て、体育館から漏れてくる音を聴いていました。山の上だからか、熱帯夜続きのこの夏でも涼しい風が吹いていて心地良かったです。

予定時間が1時間以上押していたらしく、いずれにしても最後まで観れなさそうだったので、1本早い送迎バスに乗って帰路へ。夜は外灯もなく真っ暗だからと気を利かせてくれて、予定していた駅ではなく、駅すぐそばにバスが停められる隣の駅で降ろしてくれたんですが、それよりもJRが遅延してて1時間近く待たされたことの方が問題でした。これ、1本遅いバス(終電に合わせたバス)に乗ってたら危なかったんじゃないか……。

往路と同じように電車を乗り継ぎ、帰宅すると日付が変わる直前でした。

いわゆる「音楽フェス」だと音楽が中心に来るわけですが、このフェスの場合は中心が完全に人それぞれ自由で、ゲリラ的なイベントもありながら、お客さんの数とイベントの本数の少なさと、時間の長さと場所の広さが遭遇率を下げていて、どこに行っても音楽が鳴っているという場にせず、人気のない静かな村の茶畑の中で、ごくまれにどこかから音が聴こえてくる、という状況にしているのは、偶然(おそらく)とは言え絶妙なバランスだなぁと思いました。

おそらくこの日の主役は「南山城村」で、そこにアートや音楽が点在しているという関係性の中で、どうダラダラ過ごすか、というだけのことなのかな、と。タイムテーブルを追いかけ回すでもなく、どこかでじっくり定点鑑賞するでもなく、なんとなく山道に分け入ったり、暇つぶしに散歩してみたり、日陰でまどろんでみたり。

運営の手が回り切らなくてあちこちでほころびたり破綻したりしていましたが、それぐらいの適当さだったから楽しかったように思います。

ほぼ奇跡的なバランスで結果的に楽しかっただけ、という気もしないでもないですが、そういう、計算通りとか思った通りとかじゃない、準備されたり用意されたものではない楽しさって、すごく強力だと思うんですよね。そもそも、アートはどれも“奇跡”みたいなものでしょ。

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